第33話 体育祭④ 元カノ、有村唯

「輝、結構騎馬戦活躍してたじゃん」

「まぁな。ちょっと問題もあったけどな。そういや隆貴はメシどうすんの?」

「俺は誘われてるからそいつと食べるよ。輝も来るか?」

「いや遠慮しとく」

「そっか、そんじゃ後でな」


恐らく始めによいしょやってた人らと食べるのだろうが、俺はその乗りについて行ける気がしないので断ると、隆貴はそそくさと友達の所に向かって行ってしまった。

俺は一人で食べるかと、弁当を持ち場所を探してうろうろしていると後ろから「輝!」と声をかけられた。


「ゆ、有村?」


振り返るとそこにはゴールデンウイーク初日、俺に突然別れを告げた元カノの有村唯が立っていた。


「ちょっといいかな」


彼女はすこし気まずそうに俺のことをて招くと、体育館裏に連れていかれた。


「ひさしぶり。急にごめんね…最近どう?元気?」

「元気だけど」

「そっか、元気なんだ。よかった。私ね、最近部活入ったんだ〜。サッカー部のマネージャー」


そう聞き、俺はあぁ、やっぱり先輩とのうわさは本当だったんだなと思った。

俺はこのまま彼女の話を聞いていると、イライラが溜まる気がしたので話を急かす。


「呼び出した理由はなんだ?」

「……あぁそうだった」

「輝と話すの久しぶりで、つい楽しくて忘れちゃってた」


有村はそう言うと、一度大きく深呼吸してから俺に向かって深々と頭を下げた。


「えっと…その…ごめんなさい!!!私たち別れたじゃん?その理由、詳しく行ってなかったけど、私が一方的に振っちゃってさ。輝の話なんて聞かずに」


俺は黙って彼女の話を聞く。


「でもあの後冷静になって考えたの。それで離れてみて分かったの。私の事を1番に考えてくれてるのは輝なんだって。その日から今日まで、ずっと君のことが忘れられなかった」


ふつふつと俺の中で怒りのマグマが煮込まれていく。


「夏休み開けて髪まで切って、かっこよくなって。毎日毎日、目で追っちゃって……君のことしか考えられなくて、ずっと謝ろうと思ってたのに、今日まで何も言い出せなくて……本当にごめんなさい。私、君のことが好き、大好き。ずっと好き。自分勝手なことはわかってる、でも私は君ともう一回やり直したい。こんな私だけど、もう一度付き合ってくれませんか……??」


「無理」


こんだけ煮込んだら富士山でも噴火しちゃうよって言うくらい俺の怒りはMAXだった。

有村も断られると思っていなかったのか、俺の断りの言葉に呆然としているので、俺は畳みかけるように理由を述べていく。


「なんであの時、一方的に俺を切り捨てたんだ?俺の気持ちを無視して。ていうかお前、村上先輩と付き合ってるんじゃなかったのかよ」

「そ、そんな…どうして?私は本気でやり直したいって思ってるのに!」

「無理だ、有村。俺たちはもう終わったんだよ。お前がいなくなった後、俺はずっと悩んでた。何が悪かったのか、自分を責めたりもしたよ。でも、今はもうそんなことどうでもいいんだ。お前に振られて、俺は前に進んだんだ。もう後ろを振り返る気はない」


有村は涙を堪えるように唇を噛んでいる。

その姿を見ても、俺の気持ちは揺るがなかった。

ある顔が浮かんでいて、その顔を悲しい顔にさせたくなかったからだ。


「お前が俺に戻りたいって言っても、俺はもうお前に何も感じない。それに俺は今、好きな人がいる。だから復縁は無理だ。俺は俺の道を行くし、お前はお前の道を行けよ。お互いそれが一番だろう?」


そう言うと彼女は振り返り、体育館裏を後にした。

その背中で有村が泣いているのかもしれないと思ったが、引き留める気にはなれなかった。

俺はふーと大きく息を吐き、気持ちを切り替え、丁度日陰だしこの辺りで昼飯でも食べるかと少し奥に進むとそこに一つの見覚えのある人影が見えた。


「咲音ちゃん!?」


そこには少しの段差に腰かけて、少し悲しそうな顔でグミを食べている咲音ちゃんの姿があった。


「どうしたの!?」

「一人で来たけど、ご飯忘れた」

「一人で来たって、お姉ちゃんには言わずに?」


咲音ちゃんは少し申し訳なさそうに、目を伏せながら頷いた。

彼女が独りで学校に来たことを知って、心配と同時に少し驚いたが、なんとかしなきゃと思った。


「ご飯忘れちゃったんだね」

「うん…。お姉ちゃんもお兄ちゃんも咲音の運動会来て応援してくれたから、咲音も応援したいから。でも、お昼の事考えてなくて、おやつは持ってきたけど、お昼ご飯は忘れちゃったの…」


咲音ちゃんは小さな手でグミをつまみながら、しょんぼりしている。

俺はその姿を見て、微笑んだ。

せっかく応援するために来たのに、ご飯を忘れちゃったんだなって思うと、なんだか可哀想になってきた。


「それならさ、俺のお弁当一緒に食べようか?」

「えっ、いいの?」


咲音ちゃんは驚いたように顔を上げた。

俺は軽く笑って頷いた。


「もちろん、俺一人で食べるのもつまらないしさ。ちょうど咲音ちゃんがいてくれて助かったよ」


俺はリュックからお弁当を取り出し、咲音ちゃんの隣に座った。

蓋を開けると、中には母さんが作ってくれたいつものおかずがぎっしりと詰まっていた。

卵焼き、唐揚げ、そしてご飯にはふりかけがかかっている。


「わあ、美味しそう!」


咲音ちゃんの顔が一瞬で明るくなった。

俺は彼女にお箸を渡し、少し照れくさそうに笑った。


「じゃあ、いただきます!」

「いただきます!」


俺たちは一緒にお弁当をつつきながら、少しずつ話し始めた。


「咲音ね、お兄ちゃんたちの写真一杯撮ったよ」

「おー、よく撮れてるね」

「でしょ〜」


咲音ちゃんはそう言ってドヤ顔をした後、上目遣いで俺にこんな頼み事をしてきた。


「お兄ちゃん、咲音が来たことお姉ちゃんには秘密にして欲しいな」

「えー」

「ほら、こんな写真今度あげるから」


そう言って見せてきたのは、陽菜が玉入れを満面の笑み出する姿、友達と楽しそうに話す姿、真剣な顔で走る姿など様々な陽菜が納められていた。


「お兄ちゃん、お姉ちゃんのこと好きなんでしょ?」


そんなふうに言って不敵な笑みを浮かべる咲音ちゃんに心の中で降参の白旗を振る。


「分かったよ。じゃあ、よろしく頼むよ、咲音ちゃんカメラマン」

「うん!」


それからは帰りの時は一緒に帰ろうと約束して、楽しい昼食を過ごした。


――――――――――


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