第32話 体育祭③ 咲音はじめてのおつかい

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▼松村咲音視点▼


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「咲音、行ってくるね~」

「いってらっしゃい」


今日はお姉ちゃんの高校の運動会があるらしく、お姉ちゃんは制服ではなく体操服でいつもより少しおめかしして出かけて行った。

あたしはお姉ちゃんが出ていくのを見てから、お出かけの準備をし始めた。

お姉ちゃんには家で大人しくお留守番しておくように言われたけど、お姉ちゃんもお兄ちゃんもあたしの運動会に応援に来てくれたし、あたしも学校のお姉ちゃんたちを見たい!


「えっと、持っていくものは~」


あたしはワクワクしながら、昨日までにこっそり準備してリュックに隠していたものをもう一度取り出し中身を確認する。

指さし確認は大事って先生が言ってたからね。


「おやつでしょ、プログラムひょうでしょ、それに~お姉ちゃんのお下がりのスマホ!」


おやつは食べないで取っておいたグミとラムネ。

プログラム表はお姉ちゃんとお兄ちゃんにが出るものを昨日お姉ちゃんに聞いておいて、それに鉛筆で丸を付けておいた。

そして一番大事なのはこのスマホ。

お外では調べたりとかできないけど、写真は撮れるからこれでお姉ちゃんとお兄ちゃんの写真を一杯撮るんだ。

今の時間は朝の8時30分。

プログラム表には9時にラジオ体操って書いてある。

場所は幼稚園のもう少し先で、かかる時間もいつも歩いて行っているから大体は分かる。


「お茶、忘れてたっ」


あたしは冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出し、持っていくものすべてをリュックの中に入れた。

少し重たいが多分大丈夫だろうという考えであたしは家の扉を開いて、お姉ちゃんたちのいる学校に向かった。


「だ~れにも ないしょで おでかけなのよ!」


あたしはそんな風にいつかテレビでみた番組で流れた歌を歌いながら歩く。


「ドレミファソラシド ドシラソファミレド レミファソラシド!」


そんな風に楽しみながら、時にはお茶を、時にはお菓子を食べながら歩くこと約30分。


「ついた~」


ようやくお姉ちゃんたちが通う学校に到着した。

入り口は大勢の大人の人たちが出入りをしていて、学校の中からもアナウンスや、たくさんの人たちの声が聞こえてくる。

あたしはその音につられるように歩いてグランドに向かった。

グランドに到着したは良いものの、今何の競技をしているのかプログラム表を見ただけでは分からない。


「すみません。今どれですか?」

「ん?今はね~、これよ」


あたしは近くにいた優しそうなお母さんに、プログラム表を見せて聞いてみると優しく100m走りの所を指さして答えてくれた。それはお姉ちゃんが出る競技だ。


「どこで見れますか?」

「そうね~、おばさんも見たいから一緒に行きましょうか」

「うん!ありがと!」

「いいえ、しっかりした子ね」


そういってお母さんは私を連れて見やすい前の方に連れてってくれた。


「ほら、ここならよく見えるわよ」

「ありがとう!」


あたしはリュックからプログラム表を取り出して、鉛筆で丸を付けたお姉ちゃんの出る時間を確認する。

グラウンドで同じ体操服を着た生徒の中からお姉ちゃんを探し出す。


「…あ!あれ、お姉ちゃんだ!」


遠くに見覚えのある姿を見つけた。

お姉ちゃんは他の子たちと並んで、スタートラインに立っている。

お姉ちゃんが真剣な表情で前を見つめる姿は、いつもの優しいお姉ちゃんとは少し違って見える。


「お姉ちゃ……」


応援をするとあたしが来たことに気が付かれて起こられてしまうと思ったため心の中で全力で応援することにした。

あたしはリュックからスマホを取り出して、お姉ちゃんをしっかりカメラに収める準備をする。

シャッターチャンスは逃さないんだから!


ピストルの音が響き渡り、スタートの合図が鳴る。

お姉ちゃんが一斉に走り出す姿は、まるで風のように速かった。

あたしは夢中でカメラのシャッターを切りながら、お姉ちゃんがゴールする瞬間までしっかり目を離さない。


「やったー!お姉ちゃん、一位だ!すごい!」


お姉ちゃんは見事に1位でゴールした。

写真フォルダを確認すると、綺麗に撮れている写真が何枚かあり、あたしは写真撮るのが上手なのかもと思った。

さて、しばらくすると今度はお兄ちゃんの騎馬戦の時間になった。


「お兄ちゃん、どこかな……」


あたしはまたスマホを構えて、今度はお兄ちゃんの姿を探す。

グラウンドの中央に、赤と白のはちまきを巻いた大勢の生徒たちが集まっている。

お兄ちゃんはお姉ちゃんと同じ白組のはちまきだったはずだから、あたしは白組の方をじっと見つめた。


「あっ、いた!」


お兄ちゃんは、他の子たちと一緒に騎馬を組んでいる。

お兄ちゃんは馬の上、あたしよりも高くに座っているのを確認し、あたしはまたスマホを構え、シャッターチャンスを逃さないように準備した。


(お兄ちゃん、がんばって!)


また心の中で全力応援。

ピッ!という笛の合図と共に騎馬戦がスタートする。

あたしは夢中でお兄ちゃんの騎馬を追いかけながら、写真を撮る。

お兄ちゃんは周りの馬よりも遅れて歩いている。


(いけー!お兄ちゃん!)


そんなあたしの声むなしくお兄ちゃんの馬は赤の人の馬に狙われてしまった。

赤の人の馬がぐんぐんとお兄ちゃんの方に進み馬に近づき手を伸ばして来る。

ヤバいと思ったのもつかの間、お兄ちゃんはうまくタイミングを合わせて、赤組のはちまきを狙い――


「やった!」


お兄ちゃんたちの騎馬が見事に相手のはちまきを取った!

あたしは大喜びしながらもスマホでその瞬間をカメラに収めた。


「お兄ちゃん、すごい!かっこいい!」


それからお兄ちゃんは2つの鉢巻を取ってから馬が崩れてしまった。

写真フォルダを確認すると、かっこよく撮れている写真が何枚かあり、あたしは写真撮るのが上手なのかもとまた思った。

そして、お姉ちゃんたちの競技がいったんなくなるお昼、あたしは最大のミスに気が付く。


「お昼ごはん、考えてなかった」


お昼ご飯のことを考えていなかった私は、炎天下の中一人でここまで歩いてきた疲労もあって建物の裏の影で持って来たおやつとお茶を手に今後どうしようかと考えるのだった。


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