第31話 体育祭② 騎馬戦
さて、男子全員強制参加の騎馬戦の時間がやってきた。
江上、瀧本、早田の3人がトライアングルに並び、瀧本を先頭に、江上が左翼、早田が右翼に回る。
そのトライアングルの中心に俺がお邪魔して一つの騎馬が完成した。
四色での騎馬戦はぐちゃぐちゃになるせいか、赤vs白、黄vs青という戦いになっている。
入場門の前で紅組の騎馬が、退場門の前で白組の騎馬が待機する。
ここから2年白組のテントは離れているので良くは見えないが、そこには陽菜がいるはずだ。
さっき陽菜の良い所を見せてもらった。
次は俺がカッコ良く相手の騎馬を、しゅぱ!しゅぱぱ!!っと倒す所をぜひ見せたい。
「うう」
「ぐはっ」
「お、重い……」
あ、無理っぽい……。
俺の馬が既に限界点に達しており悲痛な声を出している。
「いや、早すぎだろっ!」
「「が、頑張ぜ……」」
そんなウチの事情などお構いなしにスタートを告げるピストルの音が響き渡った。
『行くぞおおお!』
『うおおおおお!』
『おらああああ!』
先輩たちのかけ声が聞こえると、それに合わせて声を荒げる紅組は白組目掛けて縦横無尽に駆け出した――ただ一騎を除いて。
「はぁ……はぁ……」
「ぐぉ……」
「ぬんふっ」
「おいい!歴戦を潜り抜けたみたいになってるけど今スタートだからね!?」
我が馬は末期であった。
「そ、そんな事言われても……」
「俺達みたいなもやしに」
「下なんて無理さー」
「何で下を選択した!?率先して下に行ったよね!?俺気使ったよ!?使った結果だよ!?俺の体重そんなに重たいか!?」
なんやかんや言っても何とか頑張ってノロノロと真っ直ぐ移動してくれている。
しかし、そんな様子だからカモと思われて、一年生に正面から狙われてしまう。
「へっ。雑魚やん」
鼻で笑われて、完璧に舐められている。
一年生の騎手は正面から手を伸ばしてきた。
だが、舐めてかかってきてるから、俺はヒョイっと避けてそのままボクサーのジャブのように一年坊主の赤いハチマキを奪う。
「――え?」
「いやいや。流石に今のは舐めすぎだろ」
指でくるくるとハチマキを回しながら言ってやると「くそおお!」と心底悔しそうな声を出していた。
「お、おお。これいけるんじゃない?」
「田原君やるね。取りまくろうぜ!」
「神だよ」
「お前ら無理に喋らなくて良いから!体力残しておきな!ホラ!来るぞ!」
次なる刺客がやってくる。
そして先程の俺の攻撃を見ているからか、どうやら警戒しているようだ。
「向き! 向き変えて!」
馬に指示をするが驚きの答えが返ってくる。
「隊長!」
「それは!」
「浪人生に現役で受かれと言う位に無謀です!」
「どんな例え!?って無理ってことじゃん」
「腕が限界」
「遠回しがすげーわ! さっと答えろよ!」
俺のツッコミでチャンスと思ったのか、後ろからこっそり近づいて来ていた騎馬が一気に間合いを詰めて来て腕を伸ばしてくる。
それをノールックでかわしたので体勢が崩れた騎手のハチマキを奪う。
それを見てか、先程から警戒していた騎馬が少し体勢の崩れた俺に向かってハチマキを奪いに来るので、俺は膝を曲げて軽く屈む。
「グっ!!」と三人のクリティカルダメージを受けたような声が聞こえたが無視して、空振りして体勢が崩れた相手のハチマキを奪う。
「――ふぅ。これで3つか……」
「『ふぅ』じゃねー!もう良いだろ!」
「もう十分だろ!今ので取られてろよ!」
「悪魔だよ」
「サイコパスなん!?言ってる事数秒前と真逆よ!?」
いきなりの馬の反抗に俺は驚きを隠せない。
「うるせー! こんなんパワハラだ!」
「横暴だ! もう腕が限界つってんだろうがよ!」
「ワンマン野朗!」
反抗を続ける馬に俺は言い放つ。
「ええい!やかましいぞっ!この駄馬がっ!とっとと走らんかい!」
仲間割れをしている最中に「ふむ。次はここを落とすぞ」と聞こえてきたので、眼を向けるとそこにはいつぞやの村上先輩の姿があった。
「これはこれは村上陸先輩じゃないですか」
「田原輝君、その節はお世話になったね。おかげで、恥をかかされたよ」
「いえいえ、お陰でこっちは楽しい夏祭りでしたよ」
そんな彼の手元を見ると三つのハチマキがあった。
その俺の煽りが聞いたのか先輩の口調が変わった。
「――貴様見ているな!?今、貴様は俺の手を見て自分と同じだと思って少し安心したな?だがそれは違う!それは違うのだ!なぜなら未来は俺が――田原!貴様の首をもらい、それで4つになるからなのだあああ!」
先輩はどこぞのバトル漫画の悪役みたいに意味不明の台詞を吐いたかと思うと、そのまま両手で突きのラッシュをかましてくる。
「おらららららららららららら!」
「そっち!? 主人公サイド!? キャラ的に絶対、時を止める世界の人だと思ったよ」
「無理無理無理無理無理無理無理!!」
「いや!なんで馬が声出してんだよ!この流れで出すの俺だろ!てか、すげー元気だなっ!限界じゃねぇのかよ!?この駄馬っ!」
そんなツッコミを入れている場合ではなかった。
ツッコミが長すぎたのか、その一瞬の隙を見て冬馬は俺からハチマキを奪った。やはり、ツッコミは短めにスタイリッシュにするのが良いらしい。
「らあああ!」
かけ声と共に取られたハチマキを天高く掲げられると「あ、隙あり」と白組の人が村上先輩のハチマキをさらっと取って行った。
「ノオオオオオオ!」
そんな村上先輩の叫び声の中お互いのハチマキが取られたので騎馬を崩して地べたに降り端っこに寄る。
その際、どうやら2年白組のテント前まで来ていたみたいなので、チラリとテントの方に目をやる。
すると陽菜がこちらに両手に拳を作り、口パクで
「かっこよかったよ」
といったように見えたので俺も口パクで「ありがと」と返した。
すると陽菜は少し顔を赤らめながらも笑顔で、友達との会話に戻って行った。
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