第30話 体育祭① 100m走

あっという間に体育祭当日を迎えた。

本日は体育祭日和の晴天だが、こんな炎天下の中運動しなければならないという絶望から俺の心はどんよりしていた。


咲音ちゃんの幼稚園の運動会みたいにお父さんが場所取りをして、ブレブレなカメラ捌きで我が子の勇姿を撮り、家に帰れば「ブレてるー」なんて笑いながら談笑しつつ、新たな思い出を作るなんて事はなくいわば外の授業参観。

見たい親が見たい競技だけやって来ては帰って行くそんなスタイルである。


各色に分かれ、更にそこから各学年に分かれたテント。

それぞれの色の鉢巻を巻いた生徒が綺麗に分かれている光景はなんだかとても面白い。


「はぁ……。だる……」


我が2年白組のテントにて何処の誰かが呟いた声が薄く聞こえてきて苦笑してしまう。

隣の3年白組のテントを見ると、高校最後の体育祭という事でやたら気合いが入っているのが伺えるし、逆隣りの1年白組のテントを見ると、初の高校体育祭という事でどういうテンションで挑めば良いか探りを入れているといった所。

そんな学年に挟まれて中だるみしているといった様子で、二年紅組の半数近くの人達はだるそうにしていたから、その言葉を誰が呟いたかは分からない。


「輝君!頑張ろうね!」


声をかけてきたのは白のはちまきを下から上に巻いてリボンの結びをしている西原菜月だ。


「いや!ミ〇ーマウスかっ!」

「えへへ。いいでしょ。さっき友達に結んでもらったんだー」


言いながら小さくピースサインしてくる姿はまるでネズミのランドへ遊びに来た美少女を思わせる。


「――それにしても、みんなやる気ないよねー」


西原は周りを見渡して、あはは、と苦笑いを浮かべる。


「まぁやる気があるのは運動部が多いだろうな。お前みたいにやる気あるのはレアじゃない?」

「えーそうかな?ほら」


西原が指差した方向は俺らのテントの真後ろ。

そこには半袖の体操服を肩までめくり、鍛え抜かれた筋肉を見せつけている見知った野郎がいた。


「勝つぞっ!」

『おうっ!』

「絶対勝つぞっ!!!」

『おうっ!!!』

「紅組優勝目指してぇ――」

『うぉぉぉぉぉぉ――うぉい!!!!!!』


隆貴を中心に同じクラスの野郎どもが円陣を組んでそんな掛け声とともにはしゃいでいた。


「あれは例外だ。見てみろ1年生の引いた空気」


逆隣の一年生のテントを親指で差すと四条は「ありゃま」と苦笑いを浮かべる。


「ま、まぁ……。あそこまでやる気を出さなくても良いかもだけど、もう少しやる気があっても良いんじゃないかな?」


西原の言葉に答えようとすると「そうだぞ!輝!」と熱苦しい声がする。


「折角の体育祭なんだ!楽しもうぜ!お前の名に恥じないように輝こうじゃないか」

「黙ってろ」


そんなやり取りの中、俺たちの体育祭はつつがなく始まった。

現在の行われている種目は女子100m走である。

その様子を自軍のテントで見守る。

確か、陽菜が出ると言っていたが――あ、いたいた。

他の人とは違う、一際輝くオーラを放つから彼女を簡単に見つけることができた。

さっき見た時は髪を結ってなかったが、やはり運動の時は邪魔になるのか伸びてきた髪をポニーテールにしているみたいだ。

出番は――まだ先みたいだな。


「田原くん」


ボーッと女子の姿を眺めていると聞き慣れない男子の声がした。

振り向くと、クラスメイトの、江上、瀧本、早田が俺の前に立つ。


「ん? どうした?」


クラスメイトとは仲良くないし、名前程度しか知らない仲なので、俺に用事があるなんて珍しい。


「いや」

「ほら、俺達」

「騎馬戦で同じチームだから」

「あー!はいはいはい。次、騎馬戦だもんな。よろしく」

「それで田原くん。どうする?」


瀧本が聞いてくるので「ん?」と首を傾げると江上が答えてくれる。


「上に乗るか、下で支えるか」

「はいはいはい。ポジションね」


そういえば、チームは適当に決まったが、騎馬戦でどの位置にしようか何も決まってなかった。

当日に決めるのってどうなん?と思うがコミュニケーションを取ってない俺が悪い。


「どうしようか……。って、みんなは希望とかあるの?」


こちらの質問に真っ先に答えたのは早田だった。


「俺は下が良い」


彼の言葉を聞いて他の二人も「俺も」と声を重ねた。

それから三人は俺をジーッと見つめてくる。


「え、ええっと……」


 6つの瞳は、空気を読め、と言わんばかりにプレッシャーを与えてくる。めっちゃ怖い。


「う、上……かな?」


探るように答えると、6つの瞳は満足気に変わる。


「そうだよね」

「なんか田原くんは上な感じ」

「俺達をコキ使ってくれ」


あ、あははー。こいつらなんだか絡みにくい……。

苦笑いを浮かべていると「松村さんだ」と、3人のうちの誰かが零すように言ったので、視線を戻すとスタート地点に立っている陽菜の姿が目に入って来た。


「あれ? こっち見てる?」

「まさか。俺ら下民など見るはずないだろう」

「う、うるへー」


しかし……確かに彼等の言う通り、陽菜は俺達のテントをチラチラ見ている気がする。

もしかしたら、俺の事探してくれてるのかな?

そう信じて、周りの様子を見ながら、こっそり誰にもバレないように手を振ると、陽菜は大きく手を振替してくれた。


「手を振ってくれた」

「だから、俺達じゃないだろ」

「うるへー。男なら黙って振替してろ」


三人が手を振っているのはたぶん目に入っていないだろうなと、そんな俺の思いとは関係なく、スターターピストルの音が鳴り響き選手が一斉にスタートする。


横並びのスタート。良い勝負だ。――ただ一人を除いて。

陽菜はスタートダッシュをかますと、二位と随分差を付けて中盤を超える。


『わあああぁぁぁ――』


あまりにも速い為、ギャラリー達が声を上げる。

そんな歓声に包まれながら、中盤辺りで陽菜がチラリとこちらのテントを見てくるもんだから、にこっと微笑みかけてやる。


(がんばれ!)


ギャラリーの歓声が響く中、余裕でゴール。

陽菜は観客に手を振ってこたえながら『一位』と書かれたフラッグをもらっている。

こういう所は流石陽キャだなと思う。

そんな陽菜と目が合ったので、親指を突き立ててやると満面の笑みで返してくれた。



――――――――――



この度は数ある作品の中から


「迷子の妹を送り届けた着ぐるみの中の人が俺だと気づいたクラスのマドンナがぐいぐいやって来る」


を読んでいただきありがとうございます!!!!


思い切って書き始めた作品のため、どうなるか分かりませんが頑張って書きたいと思いますので、続きが読みたい!など思った方はぜひ、★やコメント、♥などを付けてくれると嬉しいです。


今後こうなって欲しい、かわいいなどコメントを残してくれると嬉しいです。


みっちゃんでした( ´艸`)

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