第29話 カッコいいと言われた
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少し短めです。
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教室に入ると、すでにクラスメイトたちが談笑していた。
俺は席に着こうとしたその瞬間、背後から声をかけられた。
「輝、おっひさ~。って、髪切ってんじゃん!すっごい似合ってる!」
振り返ると、転校生の西原菜月が笑顔で立っていた。
西原は夏休みが明けても相変わらずの明るさでなんだか安心した。
「あ、ありがとう。まあ、夏休み明けだし、ちょっと変えてみたくてさ」
「高校デビューならぬ、夏休みデビューだね!うん、すごくいい感じ!」
「それならいいんだけど」
「私もイメチェンしてみよっかな~。思い切って金髪にでも」
そう言われて西原の金髪姿を想像してみるが、彼女はどんな髪型でも似合うような気がしたので思った通りに答えた。
「いいんじゃない?体育祭ももうすぐだし」
「だね!私ここでの体育祭は初めてだから楽しみ!輝の競技何に出るの?」
「俺は…『借り物競争』と『綱引き』、それから『リレー』と『騎馬戦』だな」
「えっ?!リレーって輝って意外に足速いんだ」
見た目に寄らず足が速くてすみませんね。
キモイ奴が足が速いってもうそれはゴキブリみたいだなと心の中で自虐しておく。
「私はね、障害物競走と二人三脚に出るの」
「そうか、そっちも頑張れよ」
そうして西原との会話を終え俺は陽菜の方に目線を向けると、一瞬目が合ったがすぐにそらされてしまった。
やっぱりこの髪型は俺には似合わないのかなと悲しくなりながらも、授業の時間がやって来たので集中できないながらも脳死でノートを取り続ける俺だった。
放課後、体育祭の係に何もなっていない俺は部活もないため一人で帰ろうと昇降口に向かうと、一つ見覚えのある影があった。
「陽菜?誰か待ってるのか?」
「輝!?」
俺が顔を覗き込みながらそう声をかけると陽菜はびっくりした顔でこちらを見た。
そして少し顔を赤らめながらもう一度「輝」と俺の名前を呼んできた。
「ん?」
「輝を待ってたの!一緒に帰ろ!」
何でもない日に陽菜から誘ってくるなんて珍しいこともあるもんだなと思いながらも断る理由もないので俺たちは一緒に帰ることにした。
二人並んで歩き始めるとやはり話題は体育祭についての話になった。
「もうすぐ体育祭だね」
「だな。陽菜は何の競技に出るんだ?」
「私は『100m走』と『借り物競争』かな。輝は?」
「団体競技も合わせるなら「借り物競争」「綱引き」。後は強制参加のやつと、リレー」
「リレー?!」
やっぱり俺がリレーに出ることはそんなに意外なのか陽菜も驚いた顔で俺の言葉をオウム返ししてきた。
「ああ、断りれずに走ることになった」
「頑張って。私一生懸命応援するね」
「期待されるほど速くないんだけど……陽菜が応援してくれるなら、頑張るよ」
そんな話をしながら帰り、いつの間にか陽菜の家に到着し、俺たちは自然と足を止めた。
夕方の空が少しずつオレンジ色に染まり、心地よい風が吹く。
陽菜は少しもじもじしながら、何か言いたげに俺の方を見つめていた。
「今日はありがと、一緒に帰ってくれて」
「いや、こちらこそ誘ってくれてありがと」
俺も同じように照れ隠しをしながら返すと、陽菜は小さくうなずいて、それからまた少しの間沈黙が続いた。
俺はそれじゃあと踵を返して帰ろうとすると「待って!」と陽菜の声に呼び止められもう一度彼女の方を見る。
すると、陽菜は少し顔を赤らめながら口を開く。
「…あのさ、輝、その髪型、すっごく…かっこいいと思うよ」
「えっ?」
「それじゃあ、また明日!」
俺が聞き返す間もなく、陽菜は自分の家へと入って行ってしまった。
「それはずるいよ」
陽菜が家に入って扉を閉める音が遠く聞こえる。
俺はしばらくその場に立ち尽くしていた。
夕方の風が少し強くなり、頬を撫でるが、それすらも今の俺には実感が薄い。
「…かっこいい、か」
陽菜の言葉が頭の中で何度もリフレインする。
信じられないような、でも妙に嬉しいような感覚が胸を締め付ける。
陽菜のあの恥ずかしそうな表情、そして急いで家に入って行った姿まで鮮明に思い出されると、俺の頬も自然と熱くなっていくのを感じた。
「ほんと、ずるいよ…」
俺は陽菜への思いが日に日に強くなっていくのを感じた。
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