第28話 出場競技

夏休みもアッと言う間に終わってしまって、今日からまた学校が始まる。

夏休みは陽菜や咲音ちゃんと夏祭りやプールで一緒に過ごすことができて俺的にはとても満足な休暇を送ることが出来た。

しかし、人間というものはないものねだりな生き物で、もっと彼女のことを知りたい、彼女とくっつきたいという気持ちが最近日に日に増しているような気がする。


でも、今までの俺では彼女の隣はふさわしくないと思っていたため、少なくとも見た目だけは彼女の隣を歩く男としてふさわしいように髪を思いっきり切った。


散髪をして少し寂しくなった頭を搔きながら俺は学校の準備をする。

鏡の前に立った俺は、いつもより何割かはかっこよく見える。

これで陽菜の隣を歩くのにふさわしいのかは分からないが今できる自分の最大限だ。


「おはようさんっ」

「隆貴か。おはよ」


俺はいつものようにギリギリに家を出ると、後ろから見知った顔が話しかけて来た。


「おっ、輝、髪切ってんじゃん。夏休み明けのイメチェンか?」

「まぁ、そんなとこだ」

「ふーん。俺はそっちの髪型のほうが似合ってると思うぞ」

「ありがと」


隆貴はたぶん俺がどうして髪を切ったのかは大体は察しているのだろうが、深堀してこなかった。

そういう所が居心地よくて仲が良くなったのかもしれないなと、思いながら隆貴の振って来る新しい話題に感謝程度に花を咲かせることにした。


「そう言えば輝は何の競技に出るんだ?」

「何が?」

「なにがって、体育祭だよ体育祭」

「あ~、もう来週か」


隆貴に言われて体育祭がもうすぐそこに迫っていることを思い出し、更に夏休み前の体育祭競技決めの事を振り返る。



「今から体育祭で自分が出る競技を決めていくぞ~。体育委員、任せた」


先生に投げやりな指示をされクラスの体育祭実行委員である男女二人が教卓に立ち、一生懸命に司会、進行を開始する。


「え~まず、お知らせですが、私たち4組は白組で8組と同じです。他の色のクラス分けは前に貼っておくので気になる人は後で見に来てください」


うちの学校は8組まである結構大学校のため、色も赤、白、黄、青に分かれる。

観客もたくさん来て、この辺では結構有名な行事の1つらしい。


「早速、競技を決めていくけど男子は騎馬戦、女子は玉入れには絶対参加になってます。そのほかに個人競技を2種目選んでもらいます。選択肢は、100m走、障害物競走、借り物競争、綱引き、二人三脚です。5分後に名前順に聞いて行くのでそれまでに決めておいてください」


そう言われクラスメイト達は友達と何に出るかの話し合いを始めた。

俺も一人でだが、競技を考える。

できれば走りたくない俺は、100m走の選択肢はなく、障害物競走も避けたいところ。

二人三脚も友達がいない俺には少し難しい競技だ。

消去法で借り物競争と、綱引きにすることにした。


「――あの……。田原くん?」


ふと隣から声がして、体育祭実行委員の女生徒の茂田さんが俺を呼んできた。


「え……。あ、はいはい」


すぐさま前を向き直すと近藤さんは申し訳なさそうに言ってくる。


「あの、田原くんは何か出たい種目決まった?」

「えっと……。綱引きと借り物競争出たいかな」

「――じゃあ田所くん」

「俺は――」


そうして、みんな無事出たい競技がばらけたのか言い争うことのなく体育祭の出場種目が決定した。

これで終わりかと思っていたのだが、もう一度茂田さんが俺の方に近づいて来た。


「田原くん、できればリレーに出て欲しいんだけど……」

「へ?」

「リレーは体力テストの50m走の記録で決めてるんだけど、田原くんより速い人が皆スウェーデンリレーのほうに行っちゃって。お願いできる?」

「あっ、うんいいよ」

「ほんと!?ありがと~」


リレーなんて体育祭の花形だろうに、おそらくみんな走りたくはないのだろう。

少し手を抜いて体力テストに挑めばよかったと後悔した。

誰も俺みたいな陰キャが走るところなんて見たくはないだろうと思ったが、ここで断ってしまうと茂田さんが今にも泣き出ししうな目から本当に涙を流しかねないと思ったためしぶしぶ了承すると、満面の笑みで帰って行った。

未来の自分よ、すまん。がんばって走ってくれ。




過去の自分に殺意が出ながらも俺は隆貴に出る競技を伝える。


「団体競技も合わせるなら「借り物競争」「綱引き」「騎馬戦」「リレー」の4つ」

「おまえもリレー出んの?」

「も、ってことは隆貴もか?」

「ああ、なんか成り行きで走ることになった。けど、輝がいるならなんだか安心だわ。頑張ろうな」

「なんでだよ」

「ま、俺もそんなに走るの得意じゃないけど、輝がいればなんとかなる気がしてな」

「いや、俺も速いわけじゃないぞ?」

「謙遜すんなって、体育の50メートル走の記録、俺より速かったんだからさ」


そんなことを話しているうちに、気づけば学校に着いていた。

校門をくぐりながら、教室に向かって歩く俺たち。

その時、ふと陽菜のことが頭をよぎる。

髪を切った俺を見て、彼女はどう思うんだろう。少しでも気づいてくれるだろうか――そんな期待を胸に、俺は歩調を早め教室に入った。


――――――――――


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