9月 ①体育祭
第27話 予想外なイメチェン
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▼松村陽菜視点▼
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夏休みもアッと言う間に終わってしまって、今日からまた学校が始まった。
夏休みは輝と夏祭りやプールで一緒に過ごすことができて私的にはとても満足な休暇を送ることが出来た。
しかし、人間というものはないものねだりな生き物で、もっと彼のことを知りたい、彼とくっつきたいという気持ちが最近日に日に増しているような気がする。
そんなことを考えながらもいつも通り学校に登校すると、既に友達の何人かが登校してきていていた。
「おはよ~」
私が挨拶すると、みんな待ってましたと言わんばかりの勢いで私の方に一気に近寄って来た。
「陽菜、おはよう!」
「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど!」
いきなりテンション高めに詰め寄られて、なんだろうと思ったら、すぐに話題が飛び出してきた。
「海でナンパされた人ってさ、この前噂になってた人?」
突然の直球な質問に、私は思い出した。
そう言えばあの時は私の知り合いってことだけ言って、あの場から離れたんだった。
まさかそんな噂が広まっているとは思ってもいなかったし、ましてや輝のことをここで言うわけにはいかない。
彼はただの友達じゃないし、彼の良さは私だけが知っていればいい。
「えっ、いや、彼氏じゃないよ。そ、そんな感じじゃなくて……」
何とか言い訳を探しながら話そうとするも、友達はそれを見逃してくれなかった。
「え~? でも、かっこよかったよね~」
「うんうん。うちの学校にもあんなカッコいい子いればいいのに~」
「陽菜とならお似合いだと思うよ」
「違う違う、そういうんじゃないんだってば!」
私は盛り上がる友達に置いて行かれながらも、頑張って否定する。
「それじゃあ、紹介してよ。私狙っちゃおうかな~」
そんな中一人が不敵な笑みを浮かべながらそんなことを呟いたので私は咄嗟に「だめ!」と声を大にして言ってしまった。
その私のセリフを待ってましたと言わんばかりに彼女らは問い詰めて来る。
「ダメ?」
「どうしてかな~?」
「ただ、その人は……大事な人かな。うん、私にとってすごく大切な存在っていうか……」
そう言った瞬間、友達たちは「キャー!」と大きな声をあげて騒ぎ始めた。
「え~! やっぱり何かあるじゃん! 大事な人ってどういうこと?」
「それって、もうほぼ彼氏ってことじゃないの? どういう人なの?」
友達たちが興味津々で顔を近づけてくる。正直、言葉を選びながら答えるのが難しい。
でも、輝のことはまだ誰にも話すつもりはなかったし、彼自身がこういう話題にどう反応するかも分からない。
だから、私はできるだけぼかして話すことにした。
「うーん、詳しいことは内緒。でも、すごく優しい人で、頼りになるっていうか……そばにいると安心できる人かな。」
「それってもう好きなんじゃないの~?」
「いやいや、そんなことは……」
「でも、陽菜がそういう風に話すのって珍しいよね。なんか、ちょっと憧れちゃうなぁ~」
友達の言葉に、私は自分でも気づいていなかった気持ちにハッとさせられた。
そう、輝と一緒にいると本当に安心できるし、自然と笑顔になれる。
友達の言う通り、もしかしたら私の気持ちはもう少し特別なものに変わってきているのかもしれない。
「まあ、向こうがどう思ってるか分からないし……」
「「……」」
私の言葉に皆が無言したのかと思い、彼女たちを見て見ると私ではなく私の奥、教室の入り口辺りに視線があると気づき私はその方に目を向けた。
そしてそこに立っていた一人の姿に私は呆然とした。
私が視線を向けた先、教室の入り口に立っていたのは――なんと、輝だった。
「……え?」
思わず声が漏れた。
輝が、まるで別人のように見えたからだ。
夏休み前までの学校での彼は、どちらかといえば少し無頓着な印象があった。
伸びた髪が目にかかって、自然体というか、ちょっとボサッとした感じさえしていた。
でも今、その輝が短くさっぱりとした髪型に変わって、いつも外行きの私しか知らない彼の姿がそこにはあった。
(カッコいい)
「嘘でしょ……」
友達も驚いた様子で口元を押さえている。
そんな中、輝は軽く手を挙げてこちらに笑顔を向けた。
「おはよう」
「お、おはよう……」
なんとか返事をしたけど、私も友達もその変貌にまだついていけない。
周りのクラスメイトも彼の変わりように気づき、ざわつき始めた。
「え、あれ田原くんだよね? めっちゃイメチェンしてない?」
「髪短くなって、すごいかっこよくなってる!」
「えー、あの輝くんが!?」と騒ぎ立てる声が教室中に広がっていく。
特に女子たちは、彼に注目せずにはいられないようだった。
「え、輝くんってあんなにかっこよかったっけ?」
「ていうかあれって、この前の……」
「前はあんまり気にしてなかったけど、髪切ると全然違うね!」
輝はみんなの反応を気にするそぶりも見せず、何食わぬ顔で席に着いた。
私は、その変わりように戸惑いを隠せないまま、心がざわめくのを感じていた。
友達が私に耳打ちしてきた。
「ちょっと、陽菜! あれってさ、さっき話してた人って、もしかして……」
「えっ、いや……!」
その瞬間、私は全身が熱くなるのを感じた。さっきまで友達に適当にかわしていたけれど、これじゃ隠し通せないじゃないか、と焦りが募る。しかも、クラス中の女子が今、輝を見ている。まるで、みんなが彼に興味を持ち始めたみたいで、なんだか落ち着かない。
「えー、ちょっと輝くん、めっちゃかっこよくなってない?」という声が後ろから聞こえると、私は胸のあたりが急にざわつき始めた。
「田原君なら言ってよ~」
「でも、うちのクラスの女子が狙い始めるかもよ、陽菜?」
友達がニヤリと笑いながら言うと、私は思わずムッとしてしまった。
「そんなわけないでしょ! ……彼はただの友達だし」
そう言いながらも、心の中で焦りがどんどん募っていく。輝が他の女子に注目されるなんて、少し前なら考えもしなかった。でも、今の彼なら――そんなことがあってもおかしくない。
授業が始まる前のわずかな時間、私は輝の新しい姿に戸惑いながらも、胸の中でわずかな不安と期待が交錯しているのを感じていた。そして、これまで以上に、彼が私にとって大事な存在であることに気づかされていた。
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