第25話 プール① ウォータースライダー

夏休みも終盤に差し掛かり、暑さが一段と増してきたある日。俺は陽菜と咲音ちゃん、そして俺の三人でこの前の約束通りプールに行くことになった。

プールなんて久しぶりだなと少しワクワクしながら、駅前で二人を待っていると、ちょうど陽菜と咲音ちゃんが現れた。


「待たせちゃった?」


陽菜は軽く汗を拭いながら言った。

咲音ちゃんは相変わらず元気で、彼女の隣で跳ねるように歩いていた。


「ううん、今来たところ」

「うん、咲音が早く行きたがってたから、すぐ出たんだよ」

「だって、プール楽しみなんだもん!」


咲音ちゃんは無邪気な笑顔を浮かべ、すでにプールへの期待でいっぱいの様子だった。そのエネルギーにつられて俺も自然と笑顔になった。


「じゃあ、早速行こうか」


俺たちはバスに乗り込み、目的地のプールへと向かう。

道中、陽菜と咲音ちゃんと他愛ない会話をしながら、楽しい一日が始まる予感に胸を躍らせていた。


プールに到着すると、施設からはみ出る位の大きさのウォータースライダーや、中で既に楽しむ人達の声が聞こえてくる。


「それじゃあ、着替えて中で合流ね」

「了解」

「楽しみにしててね」


陽菜は不敵な笑みを浮かべながら女子更衣室の方へ咲音ちゃんと一緒に向かっていった。

俺もその背中を見送り更衣室へ向かった。


着替えを終え、施設内に入ると流れるプールやウォータースライダー、大きな波のプールなどが沢山広がっており、どこから楽しむか迷ってしまうほどの規模だった。

そんな風に施設を見渡していると、人込みの奥の方から陽菜と咲音ちゃんの姿が見えたので手を振り自分の位置を伝える。

俺に気付いたのか、彼女たちは俺に駆け寄ってきたが、俺はその光景に少し見とれてしまった。


咲音ちゃんは紫のお花柄があしらわれたワンピース水着で、ほわんとふくらみのあるお袖にウエスト部分のフリルと胸元のリボンがあり本来の咲音ちゃんの可愛らしさが最大限生かされていた。


陽菜はカーキ色のシンプルなデザインのビキニ型の水着で、その凹凸のある体が強調されており、とても大人な感じを漂わせていた。

今回もウィンドブレーカーを羽織るだろうと勝手に思っていた俺にとっては鳩に豆鉄砲であった。


「ど、どうかな?」

「か、かわいい。似合ってるよ。陽菜も、咲音ちゃんも」

「あ、ありがとう」

「おにいちゃんも水着にあってるね!」

「ありがと」


少し恥ずかしがっている陽菜とのぎこちない会話を交わす。

確かにさっきから少し周りの人たち(特に男)の視線が気になるが、着ている本人が恥ずかしがっているとこっちまで恥ずかしくなってくる。


「と、とりあえず行こっか。どこから行く?」


俺がその恥じらいを逸らすために二人に問いかけると、咲音ちゃんはすでに目をキラキラさせて、巨大なウォータースライダーを指差していた。


「あれ!あれに乗りたい!」

「あれか…、結構高いけど大丈夫?」

「大丈夫!お兄ちゃんが一緒なら怖くないもん!」


咲音ちゃんの無邪気な頼り方に、俺は少し照れながらも笑顔でうなずいた。


「じゃあ、行ってみるか。陽菜も乗る?」

「うん、せっかくだし、乗ってみようか」


三人でウォータースライダーの列に並び、順番を待っている間、咲音ちゃんはテンションが上がりっぱなしだった。


「わぁ~、あそこから滑り降りるんだね!お兄ちゃん、速そう!」

「まあ、結構スピード出ると思うけど、怖がらないでよ?」

「うん、楽しみ~!」


陽菜は少し緊張した様子で空を見上げていたが、俺が視線を送るとすぐに微笑み返してきた。


「私、こういうの少し怖いかも……」

「大丈夫だよ。もし怖かったら、下で待ってる?」

「いや!がんばる」


そして、いよいよ俺たちの順番が近づいて来ると、新たな問題が浮かんできた。

このウォータースライダーは3人でも乗れるのは良かったものの、その乗り方に問題があるのだ。

3人が縦に穴が並んだ浮き輪に乗り込むのだが、後ろの人の又の部分に一つ前の人の頭が入ることになる。


「咲音、一番前がいい!」


そんな風にわくわくで、眼をキラキラさせながら言われるとダメとも言えないために俺と陽菜は2番目か3番目になる。


「それじゃあ、私は一番後ろにしよっかな」


咲音ちゃんの発言に今度は陽菜がそう答えた。

そうなると俺は陽菜の水着で露わになった生足に挟まれながら滑り降りることとなってしまう。

それではいろいろとマズいため俺は陽菜に提案をする。


「俺が一番後ろに座るよ。ほら、ジェットコースターとかだと後ろの方が怖いって言うし、陽菜は真ん中の方がいいんじゃない?」

「それじゃあ、真ん中にする」


そんな俺の頭脳プレーのあと俺たちの順番が回って来た。

咲音ちゃんは一番前に座り、しっかりと浮き輪の取っ手を掴んで準備万端。

陽菜は真ん中で少し不安そうにしていたが、よしと気合いを入れて取っ手を掴む。


「じゃあ、行くぞー!」


スタッフの合図で、俺たちは一気に滑り出した。

最初はゆっくりだったが、すぐにスピードが増し、風を切る感覚が体に伝わってくる。

咲音ちゃんは大興奮で「キャー!」と声を上げ、陽菜は「きゃっ!」と少し控えめな叫び声を上げながら、何故か浮き輪の取っ手ではなく俺の足にしがみついてきた。


「わ、速い速い!」

「わ~い!!」


陽菜の手が俺の足にぎゅっと絡みつき、何か柔らかいものが当たっているなとウォータースライダーの怖さそっちのけで俺はドキドキしながらも、なんとか平静を保とうとした。風が顔に当たり、水しぶきが飛び散る中で、揺れで何度も押しつけられるたびに心臓が一層高鳴る。

ウォータースライダーのカーブを勢いよく曲がりながら、ついに最後の急降下。

俺たちは大きなプールに飛び込むように滑り落ち、水しぶきと共にプールに突入した。


「わぁー!楽しかった!」


咲音ちゃんは満面の笑みを浮かべながらプールの中で跳ね回っていた。

陽菜も、ウォータースライダー中の事なんて覚えてもおらず、無事に終わると少し安堵の表情を見せていた。


「思ったより楽しかった…でも、やっぱりちょっと怖かった」

「途中から取っ手じゃなくて俺の足、相当握ってたしね」

「うそ!?」

「ほんと」


陽菜は思い返して顔を赤らめながら水をかけて来た。

そんな可愛らしい照れ隠しを弄りながら俺たちはその後、俺たちは普通のプールに向かった。


――――――――――


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