第24話 2人でお留守番
夏休み俺は松村家に咲音ちゃんと二人で過ごしていた。
朝から元気いっぱいの彼女は、いつも陽菜と一緒にいる時とは違った顔を見せていて、そのテンションについて行くだけで高校生の俺でも少しすでに疲れてしまった。
なぜ俺たちが二人で過ごしているのかというと、陽菜も陽菜の親も外せない用事があるらしく俺に白羽の矢が立ったのだ。
「咲音ちゃん、どこか行きたいところある?」
何処に行ってもいいという許可は貰っているので、俺は素直に咲音ちゃんに尋ねてみる。
「ワンちゃんとかネコちゃんと遊びたい!」
「そうか~、それじゃいつものショッピングモールのペットショップにでも行ってみる?」
「うん!」
二人でショッピングモールへ向かう途中、咲音ちゃんは終始楽しそうに話していて、まるでぴょんぴょんと飛び跳ねて冒険に出かけるかのような興奮を見せていた。危ないので手は繋いでおいた。
彼女のリクエストを受けて、早速ショッピングモール内のペットショップへ向かった。
店内に入ると、可愛い子犬や子猫たちがガラス越しに元気よく駆け回っている。
咲音ちゃんは、すぐにその光景に釘付けになり、顔をガラスに近づけて楽しそうに見つめていた。
「見て、お兄ちゃん!あの子、すごくちっちゃくてかわいい!」
ガラスの向こうでは、ぴょんぴょん跳ねる小さな柴犬が、咲音ちゃんに向かって尻尾を振っていた。
彼女は興奮した様子で、その子犬に手を振り返している。
「抱っこできるらしいけどしてみる?」
「する!」
俺は店員さんに抱っこしたい旨とどの子かを伝えると、さっきの柴犬を連れて「触れ合いコーナー」に案内してくれた。
そこには他のお客さんもそれぞれ抱っこしたい犬を連れて癒されていた。
「やったー!早く触りたい!」
咲音ちゃんは大喜びで、小さな子犬を優しく抱っこすると、子犬は安心したように彼女に寄り添っていた。
咲音ちゃんはその温もりに笑みを浮かべながら、優しく撫で続けている。
「ほんと、可愛いね……。ふわふわしててあったかい」
俺も抱っこしてみたが、そのふわふわの毛並みと甘えん坊な仕草に、思わず頬が緩んだ。
しばらくペットたちと遊んだ後、名残惜しそうに別れを告げる咲音ちゃんを見て、心がほっこりした。
「また会いに来たいね」
「うん、次も絶対来ようね!」
後ろ髪を引かれる咲音ちゃんを連れてペットショップを後にし、少し歩いているとフードコートが近くにあったのかいい匂いが俺たちの花をくすぐって来た。
「お腹空いた」
「そ~ね。お昼ご飯にしよっか」
ショッピングモールのフードコートに到着すると、咲音ちゃんがいろいろなメニューに目を輝かせていた。
ラーメンやハンバーガー、ピザなど、たくさんの選択肢がある中、彼女が選んだのはオムライスだった。
「オムライスが食べたい!」
「オムライスか。いいね、俺もそれにしようかな」
二人でオムライスを注文し、席に着いた。
オムライスは、フワフワの卵がライスの上に乗っていて、その上にたっぷりのケチャップがかけられている。
咲音ちゃんは大きなフォークを手に取り、嬉しそうに一口大きく頬張った。
「ん~!おいしい!」
その笑顔と満足そうな表情は、見ているだけでこっちも幸せになる。
俺も一口食べてみたが、たしかに美味しい。
ふんわりとした卵とケチャップライスの相性が抜群で、思わず笑顔がこぼれた。
「オムライス、久しぶりに食べたな。美味し」
「お兄ちゃんも美味しい?よかった~」
咲音ちゃんは満足げにフォークを進めながら、さらにオムライスを楽しんでいた。
昼食を終え腹ごしらえを終えた俺たちは、ショッピングモールの中を散策していると、咲音ちゃんがある場所で立ち止まった。
「お兄ちゃん、ピアノがある!すとりーと?ピアノだって」
「ほんとだ。弾いてみる?」
「いいの?やってみたい!」
咲音ちゃんは小さな手で鍵盤に触れ、ピアノの前に座るとドレミファソと順番に押していった。
「上手上手!」
「お兄ちゃん引ける?」
咲音ちゃんはそう言いながら俺に席を譲って来たので俺はピアノに向かって椅子に座ると、最近秘密で練習している流行の曲を奏でることにした。
ピアノの美しい音がショッピングモール全体に響き渡る。
思わず立ち止まって聴き入る人々もちらほらと現れているのが目に入ったが、俺も音に気持ちが良くなり奏で続ける。
最後の音が消えた瞬間、周囲から自然と拍手が湧き上がりふと我に返った。
こんなに聞いてくれる人が居たなんて思わなかった俺は、そそくさと咲音ちゃんを連れてその場を離れた。
「すごいよ、お兄ちゃん!あんなに上手に弾けるなんて」
「ありがとう、咲音ちゃん。でも、これお姉ちゃんにはヒミツね」
「どうして?」
「今度、学校の発表会までしーだよ」
「分かった。しー」
俺が口に人差し指を当てるのの真似をして咲音ちゃんもそうした。咲音ちゃんなら約束は守ってくれるはずだ。
そして俺達が最後に向かったのは、ゲームセンターだ。
咲音ちゃんは目を輝かせて、まずクレーンゲームのある犬のぬいぐるみにくぎ付けになっていた。
「これが欲しい!」
「これ?」
「うん、さっきの犬さんに似てるから。お姉ちゃんにおみやげ」
この間の夏祭りにもぬいぐるみを取ったはずだが、いつか家がぬいぐるみで一杯になるのではないかと言う心配はさておき、彼女の期待に応えようと、俺はクレーンゲームに挑戦する。
クレーンゲームは射的ほど自信をもってうまいとも言えないし、やったことも指折りなので少し心配である。
俺は100円を入れ狙いを定めて慎重にクレーンを動かし、ぬいぐるみを掴もうと試みたが、クレーンはなかなかうまく動かない。
「うーん、ちょっと難しいな。でも、もう一回やってみよう」
俺は再び挑戦し、今度は少し手応えを感じた。クレーンがぬいぐるみをしっかりと掴み、ゆっくりと上昇していく。
咲音ちゃんは息を呑んで見守っていたが、クレーンが無事にぬいぐるみを取り出し口まで運んでくれた。
「やったー!お兄ちゃん、ありがとう!」
彼女は嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめ、俺に向かって満面の笑みを見せてくれた。
俺もその笑顔に満足感を覚えながら、彼女との楽しい時間を噛み締めていた。
その後も、二人でレースゲームやダンスゲーム、シューティングゲームなどを楽しみ、時間が経つのも忘れるほどに遊び続けた。
「今日は本当に楽しかったね、お兄ちゃん!」
「うん、楽しかったよ。また二人で遊びに行こうな」
咲音ちゃんの笑顔は、俺にとって最高の報酬だ。
彼女と過ごした一日は、何とも言えない幸せな時間だった。
「ただいま~」
家に帰ってしばらくすると陽菜が帰って来た。
「「おかえり」」
「輝、今日はありがとね。咲音もお兄ちゃんに迷惑かけてない?」
「咲音ちゃんはおりこうさんだったよ」
「今日一日何してたの?」
陽菜のその問いに咲音ちゃんは俺に目くばせをしてから
「ひ・み・つ。だよね、お兄ちゃん!」
「そうだね」
俺たちのそんなやり取りにちょっとむくれる陽菜と、逆にニコニコの咲音ちゃんに別れを告げ松村家を後にした。
――――――――――
▼咲音の日記▼
――――――――――
今日はお兄ちゃんと2人でいろんなところに行きました。
ワンちゃんはとってもかわいくて、かえるときはすこしさびしかったです。
オムライスもおいしかって、こんど咲音もおにいちゃんにつくってあげたいです。
おにいちゃんはピアノもじょうずでした。
犬さんのぬいぐるみはお姉ちゃんもよろこんでいて、ねるときにまで連れていってました。
今日はとってもたのしかったです!
おにいちゃんのピアノはヒミツだよ、先生!
※咲音ちゃんの幼稚園の先生になったつもりで、返信をコメント欄に書いてね!
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