第23話 許してください
「輝!?」
俺がナンパで声をかけた相手はあろうことか、同じ学校のクラスメイトの集団だった。
さらにその中には陽菜の姿もあり、俺に気付いた彼女は俺の名前を口にした。
陽菜の格好は上にラッシュガードを着ており、下には水着を着ているのだろうが覆われていて見えない。
が、ラッシュガードが大きいせいかそれから生足が生えているように見える格好で少し見とれてしまう。
「陽菜知り合い?」
「あ、……」
「間違えました〜。失礼しま〜す」
俺は陽菜が友達の質問を答えようとするのを遮るついでに俺はそそくさとその場を立ち去る。
そして隆貴の元に戻ろうとするもさっきいた場所に隆貴の姿はすでに見当たらなかった。
(あの野郎、相手が同じクラスの奴だと分かって逃げやがったな)
心の中でそんなことを思いながらも、俺も早くずらかろうと足を砂浜に踏み込んだ時、後ろから知った声が俺の名前を呼んだ。
「輝くん」
振り返るとそこには陽菜だけが立っており、さっきのクラスメイト達の姿はなくなっていた。
「ちょっとお話いい?」
そして、少し頬っぺたを膨らませて俺をそこから少し離れた人が比較的少ない砂浜まで連行した。
「そこに座る!違う!正座!」
俺が体育座りで座ると、すぐに訂正され熱い砂浜の上に正座という鉄板土下座のような仕打ちを受けることになった。
正座をして陽菜を見上げる角度となったが、それは今度はさっきまで見えなかったラッシュガードの下を覗き込む角度となり、着ているのが水着とは分かっていながらもそこに目が行ってしまう。
「それじゃあ話してもらおうか?何をしてたの?」
「いや、えっと……」
陽菜に聞かれた問いの答えを頭をフル回転させて考える。
ナンパをしてましたなんて言ったら多分だがこれ以上に起こられてしまうだろう。
しかし、脛の辺りが火傷しそうなくらい熱いし、目の前にはちらちら見えるエロが。
そんなことを考えていると、俺の目線に気付かれてしまったのか、陽菜は顔を真っ赤にして「家に帰る!」と言って立ち去ってしまったので、俺は急いで彼女の後を追いかけた。
「陽菜、待ってくれ!」
俺は慌てて立ち上がり、正座で痺れた足を引きずりながら陽菜の後を追った。
陽菜の姿が遠ざかる中、彼女は立ち止まることなく砂浜を歩いていく。
「もう……輝なんて知らない!」
怒った声が聞こえてくるが、何とか彼女を止めなければと必死で追いかける。
やがて陽菜は、海水浴場の外に向かう階段に差し掛かったところでようやく歩みを止めた。
「陽菜、誤解なんだ!ちょっと待って、話を聞いてくれ!」
俺が息を切らせながら声をかけると、彼女は少し振り返り、表情にまだ怒りを浮かべながらも立ち止まってくれた。
「誤解?じゃあ何をしてたの?ナンパしてたようにしか見えなかったけど?」
その言葉に一瞬返答に困る。実際、俺は確かに隆貴のナンパ計画に付き合っていたのだから、誤魔化すことはできない。でも、陽菜にはそれを正直に話すべきだと判断した。
「隆貴がどうしてもナンパしたいって言ってさ、俺は付き合わされたんだ。俺自身は何もする気がなかったんだけど、流れで一緒に行動してただけなんだ」
心の中で隆貴のせいにしたが、悪いとは思っていないからなと彼に伝える。
陽菜は腕を組み、少し考えるように俺を見つめた。
「……それって、本当?」
「嘘じゃないよ」
陽菜は少し眉をひそめながらも、俺の目をじっと見ている。そして、ため息をついた。
「……まあ、輝がそんなことするとは思わないけど……。そういうのはもう辞めようね」
「ごめん、反省してる」
陽菜の怒りが少し和らいだのを感じた俺は、安堵しながら謝罪した。
「……私がいるじゃん」
「え?」
「何でもない!ちょっと、家に帰るから付いて来て!」
そう言われ、なぜか俺は陽菜の家に連れて帰られる。
家に到着すると咲音ちゃんがお出迎えしてくれた。
「お姉ちゃん?おかえり、早かったね。それに、ヒカルンお兄ちゃん?一緒に行ってたの?」
咲音ちゃんは陽菜の隣に立ち、二人の間を不思議そうに見つめた。
「お兄ちゃんがいけない事してたんだよ」
「いけないこと?」
「えっと、ちょっとした誤解があってさ……」
「ごかい?」
「咲音にはちょっと早いかな。次はナンパなんてしないで、ちゃんと私たちと遊んでよ」
「なんぱ?」
「はい」
陽菜とそんなやり取りをすると、咲音ちゃんはさっきの陽菜のようにほっぺを膨らませていた。
「お姉ちゃんたちばっかり遊んでずるい!咲音も遊ぶ!」
「それじゃあ……今度さ、三人でプールに行こうよ。どうかな?」
その提案に、咲音ちゃんは目を輝かせながら「プール行きたい!」と叫び、陽菜も少し考えた後で頷いた。
「いいわね。それで今回の事は完全に許してあげる」
「それじゃあ決定だ」
「やった!楽しみ」
こうして、俺は何とか陽菜の機嫌を直し、咲音ちゃんも喜んでくれた。
隆貴に関しては後程怒りの電話をしておき、夜ご飯を奢ってもらうことで許すことにした。
何を奢ってもらおうかな、やっぱり焼肉かな。
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