第21話 夏祭り④ end

先輩からのナンパを受けてから、陽菜の距離がなんか近いような。

そんな俺の煩悩を彼女たちは知ったことかと言わんばかりに俺を夏祭りの屋台の中連れまわす。


かき氷に、焼きそば、チョコバナナ。

夏祭りの屋台のザ定番のようなものを買って行く。

ビニール袋を持っていたため、普通の量なら問題ないのだが彼女たちは二人分買い、それにさらに問題が降りかかる。


「嬢ちゃんたち可愛いねぇ~、おまけしてあげるよ」

「やった!」

「ありがとうございます!」


そんなやり取りが行く店行く店で繰り広げられていくものだから、俺の手荷物は食べ物でパンパンになっていった。


「ち、っちょっとどこかに座らない?もうこれ以上は持てないし、お腹も空いてきたから」


俺がそう提案し、松村姉妹もそれに納得してくれたのか、すぐに空いた場所を見つけてくれいったん座ることに成功した。

俺がフッと一息つこうとしていると、咲音ちゃんが話しかけて来た。


「お兄ちゃん!咲音、チョコバナナたべた~い」


そう言われ、咲音ちゃんにチョコバナナを渡すと、自分の顔と同じくらいの大きさのチョコバナナを頬張る。

その姿は何とも可愛らしかった。

陽菜もチョコバナナに手を伸ばしたらしく、大きな一口でチョコバナナを口に入れた。

その姿は可愛くはあったのだが、何故かどうしてかこんな考えをしてしまう俺を殴って欲しいがエロティックな感じがしてしまった。なぜ、だろうか……。


「私の顔に何か付いてる?」


そんな光景に固まってしまっていた俺に異変を感じ取ったのか陽菜が声をかけて来たが、とりあえず「なんでもない」と誤魔化しておいた。

松村姉妹はチョコバナナを食べ終わると、次は焼きそばに移行した。

チョコの後に焼きそばなんて舌が受け入れるのかと思うが、彼女たちには関係ないのだろう。

陽菜は綺麗に箸を使って焼きそばを食べていたが、咲音ちゃんは椅子が低いのか、机が高いのかで少し食べにくそうにしていた。


「咲音ちゃん、食べずらいなら俺の膝の上に座って食べる?」


俺が膝を叩きながらそう尋ねると、咲音ちゃんは快く頷くと俺の膝の上に座って来た。

高さが合ったのか、咲音ちゃんはちゅるちゅると焼きそばを食べ始めたのは良いのだが、今度は咲音ちゃんが俺と机の間にいるために俺が焼きそばを食べずらくなってしまった。

まぁ、咲音ちゃんが食べ終わるまで待てばいいかと自分の中で結論付けると、陽菜が、俺の横に椅子を持って来た。


「それじゃあ、輝が食べられないから、代わりに私が食べさせてあげる。はい、あ~ん」


そう言って、陽菜は焼きそばを箸で持ち上げると俺の口元まで持ってくる。

俺は動揺しながらも咲音ちゃんが膝の上で黙々と焼きそばを食べているため、逃げることが出来ずに俺はぎこちなく口を開く。


「あ、あ~ん。……美味しい」

「ほんと?はい、もう一口、あ~ん」


食べさせてもらう焼きそばはいつも食べる食べ物よりもおいしく感じ、満腹感を感じる前に焼きそばを食べきってしまった。

傍から見れば俺たちはカップルに見えるのだろうか。

先輩には似合ってないと言われた時、彼女は否定してくれたがそれは演技だったのだろうかと、考え込んでしまう。


ヒュ~~、パンッ!


そんな思いをかき消すように、夜空に花火が上がるぱっと、広がる光が一瞬で辺りを照らす。

咲音ちゃんは膝の上で「わぁー!」と声を上げて歓声を上げ、陽菜も一緒になって花火を見上げていた。


俺は、そんな二人の横顔をぼんやりと眺めながら、少し不思議な気持ちになっていた。

陽菜との関係をは何なのだろうかと、胸の奥がもやもやとする。


最近、俺に対して少し距離が近いような気がする。

彼女はいつも明るくて、俺のことを気にかけてくれるけど、今日の祭りでの様子は少し違って見えた。

俺が田原であり中原であると知った時から、特にそう感じるようになった。


「綺麗だねぇ、花火」


咲音ちゃんが感心したように言うと、陽菜も笑顔で頷く。


「うん、本当に綺麗。こうやってみんなで花火を見るのが一番の楽しみ」


陽菜の横顔を見ながら、俺は頭の中でいろいろと考えてしまう。

もし、陽菜が俺に特別な感情を抱いているとしたら……俺はどうすればいいんだろうか。

ただ、陽菜といると心が落ち着くし、彼女の笑顔を見ると嬉しくなる。

きっとこの感情が恋愛感情なんだろう。


「輝、どうしたの?なんか考え事?」


陽菜が俺の方を向き、心配そうに声をかけてくる。


「あ、いや、なんでもないよ。ただ綺麗だなって思ってさ」

「そうだね!」


そう言って、陽菜はまた花火に目を向ける。

もう少しこの時間が続いてほしいと願っていながら、俺は心の中で陽菜がと付け加えた。

花火が最後の大きな音を立てて打ち上がり、夜空を彩る。

その瞬間、俺は二人に向かって静かに微笑んだ。


(この夏、忘れられない思い出になりそうだ)

「そうだ!3人で写真撮ろ!」


そんなことを考える帰り道、咲音ちゃんがちょうどよく提案してきた。

俺もこの思い出は忘れたくないと思っていたため「いいね!」とその提案に乗ることにし、スマホの内カメラを起動させた。


「撮るよ~」


俺がそう言ってスマホを構えると、陽菜も咲音ちゃんも俺の顔に顔を近づけ画角に入って来る。

その距離に少しドキドキしてしまいながらも俺はパシャっとシャッターを切った。

俺たちは、それから仲良く三人で手を繋ぎながら家に帰った。



――――――――――


▼咲音の日記▼


――――――――――


今日は、お兄ちゃんとおまつりに行きました。


お兄ちゃんは、ぬいぐるみさんをてっぽうで取ってくれたり、こわい人から助けてくれてとてもかっこよかったです。

それと、お兄ちゃんとお姉ちゃんのゆかたはどっちもかっこよくてかわいかったです。

ハナビは大きくて、ばーんって大きな音がなってびっくりしたけどきれいでした。

また、お兄ちゃんとお姉ちゃんと行きたいです。



※咲音ちゃんの幼稚園の先生になったつもりで、返信をコメント欄に書いてね!

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