第20話 夏祭り③ ナンパ

二人を置いてトイレに行ったのがいけなかった。

慣れない浴衣でのトイレが少々時間が掛かってしまい、急いで陽菜たちの元へ戻った時にはもうそれは起きていた。


「――いいじゃない。一緒に回ろうよ」

「さっきから何度も、嫌だとお断りしてるじゃないですか……!」


所謂、ナンパという奴だ。

それを考慮しなかった自分に反省する間にも、チャラい男によるナンパ劇は続けられていく。


「そうつれないこと言わないでさ~。ほら、女の子だけで祭り回るのは寂しいでしょ?ねぇ、嬢ちゃんも」

「人を待っているんです……!」


陽菜はナンパ男に左手を掴まれ、目の端に涙を浮かべていた。

普段は強気な咲音ちゃんも、人形を強く抱きしめ何も言わずにお姉ちゃんの後ろに隠れている。

強引な男に怖がっているのだろう。


さすがに、これは見て見ぬふりはできない。

いつからこのナンパは始まったのだろうか。

俺がトイレに行った直ぐ後からなら誰か止めに入ってくれればいいが、これだけ見ている人がいるのに、厄介ごとに首を突っ込もうとする奴はいないようだ。


「――ごめん、待たせちゃった」


危なくないよう陽菜から男を引き剝がしながら俺は、明るい雰囲気を作りながら笑顔で輪に入っていった。


「……輝」


陽菜の綺麗な瞳が、大きく揺れながら俺の姿を捕らえる。

知り合いが登場したからか、強張っていた彼女の表情が若干緩んだのがわかった。


「なんだよ、お前?今取り込み中だってわからないのか?」


そして、邪魔者の登場により、チャラ男?がガラ悪く俺にガンを飛ばしてきた。

そしてその顔に見覚えがあった俺は彼の名前を周りに聞こえるように大きな声で言い放つ。


「これはこれは、誰かと思えばうちの高校のサッカー部のエースの村上陸先輩じゃないですか~」

「お、おう。お前俺の事知ってんのか」


相手が自分のことを知っていると知って少し動揺したのかさっきまでの勢いが少し弱まった気がする。

俺はこの機を逃すわけにはいかないと畳みかける。


「はい、もちろん知ってますよ」

「そんじゃあ、話は早い。その嬢ちゃんたちを……」

「うちの高校でイケメンって噂で、最近は新しく彼女が出来たとか。確か名前は~、有村……」

「あ~、分かった分かった」


俺が先輩の言葉を差し置いてそんな情報を口にすると、これ以上はマズいとも思ったのか先輩も俺の言葉に被せて来た。

そう言えば、最近有村唯の姿を見ないが何をしているのだろうか。まぁ、どうでもいいか。

今はこの状況を打破することが最優先だ。


「すみませんね、彼女は俺たちと回る約束をしていたんですよ」

「お前ら付き合ってんのか?」


俺が聞かれなくないがために話を逸らしたのに、先輩はわざわざ聞いてくる。


……仕方ない。


「これから祭りデートなんです」


ここで誤魔化したり否定したりしたら、先輩が退ひかないのは目に見えている。

そのため俺は、彼氏のフリをすることにした。


「ほ~ん?君がその子の彼氏ね~?はは!どう見ても釣り合ってねぇだろ!」


どうやらチャラ男たちは、俺たちのことを疑っているようだ。

全力で身だしなみを整えたのだが、やっぱり俺には彼女の隣を歩くには釣り合っていなかったか。

俺が先輩の言葉が心に刺さり俺が少し言葉に詰まると、横から綺麗な声が聞こえてきた。


「――彼はとても素敵な人です……!私は彼が大好きなので、馬鹿にしないでください……!」


先輩が俺を馬鹿にして笑っていると、突然陽菜が俺の腕に自分の腕を絡めてきた。

彼女は賢いので、状況を読んで付き合っているフリをしてくれたのだろう。

そして彼女は、先輩をキッと睨む。

咲音ちゃんも、眉間にしわを寄せて子犬が威嚇をするような感じで先輩を睨みつける。


先輩がその眼差しに攻撃的姿勢から受け身姿勢になったのを、俺は見逃さなかった。


「そろそろ行ってもいいでしょうか?あまり騒いでて、警察のお世話になりたくないので」


俺はそう言いつつ、『周りを見てみろ』と言わんばかりに視線を周囲へと向ける。

俺の視線に釣られた先輩は、周りに視線を向け――。


「き、今日の所はこれくらいで許してやるっ」


自分が注目されているとわかると、チャラ男たちはそそくさと逃げていった。

結構小心者しょうしんもので助かったな。


「ごめん、俺が目を放したから……」


俺がそう謝罪をしようとすると、陽菜は人差し指を俺の唇に当ててきて口を塞ぐ。


「謝らないの!ありがとう、助けてくれて」

「ヒカルンお兄ちゃん、かっこいい!」

「ありがと。それじゃあ、いこっか」


さっきのデートのくだりを触れないのはどうしてか触れなくてもいいと思ってしまったからだ。


そうして俺たちはまた夏祭りへ戻って行く。

その際、咲音ちゃんは俺の左手をしっかり握り、陽菜は俺の右腕をがっちりホールドしてきた。


「もうはぐれちゃダメだもん。ね、咲音!」


そうして松村姉妹は笑顔で笑い合った。

陽菜さん、腕を組むのは良いんですけど何がとは言いませんが当たってるんですけど……。

こんな時に思い出すのはどうかと思うが、浴衣の時は着ないなんて情報は本当なんでしょうか。

そんなことを考えてしばらくは心ここにあらずで祭りの屋台を回る俺だった。



――――――――――



この度は数ある作品の中から


「迷子の妹を送り届けた着ぐるみの中の人が俺だと気づいたクラスのマドンナがぐいぐいやって来る」


を読んでいただきありがとうございます!!!!


思い切って書き始めた作品のため、どうなるか分かりませんが頑張って書きたいと思いますので、続きが読みたい!など思った方はぜひ、★やコメント、♥などを付けてくれると嬉しいです。


今後こうなって欲しい、かわいいなどコメントを残してくれると嬉しいです。


みっちゃんでした( ´艸`)

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