第17話 終わりと始まり

隆貴がヒカルンの中が俺(田原)であることをバラしてしまってから数時間後、俺は松村さんに言われた通りカフェにやって来ていた。

格好はとりあえず外行の髪をあげたスタイルで来た。

以前の時と同じように俺の前の席に松村さん、俺の隣に咲音ちゃんという構図で座る。


「どうして隠していたんですか!?」

「……」


松村さんが、眉間に眉を寄せて尋ねてきた問に対して俺はなんと答えて良いか分からず、黙ったまま座っていた。

注文した飲み物が、俺の元に届いたが手をつけることなくただ沈黙が流れる。

そんな中、口を開いたのは俺でも松村さんでもなかった。


「ごめんなさい」


俺は左を見ると咲音ちゃんが、申し訳なさそうに下を向いて座り、太ももの上に乗せられた手は力強く握られている。


「どうして咲音が謝るの!?」

「……」

「まさか、咲音も知ってたの?」


咲音ちゃんは、松村さんの問に黙って頷く。

それに対して松村さんは「何で教えてくれなかったの!?」と、声を大にして咲音ちゃんに尋ね少し咲音ちゃんも強ばっている。

そんな姿を見て男で年上の俺が黙って見ておく訳にはいかず、俺は口を開いた。


「咲音ちゃんは悪くないよ。俺が全部悪いんだ。俺が咲音ちゃんに秘密にしてってお願いした」


俺の言葉に彼女も落ち着きを取り戻したのか、1口カフェオレを口にしてからもう一度尋ねてきた問に俺は、正直に答えた。


「どうして?」

「初め、咲音ちゃんの迷子を届けた時。あの時は、これからは関わることもないだろうと思ってたし、俺だって知らない方が松村さんのためかなと思って嘘をついたんだ。でも、それからも何回も関わる機会があって、そしたらだんだんいうタイミングを失っていって。本当にごめんなさい」


俺の答えを黙って聞いていた松村さんは、まだ強ばった顔を戻すことなく質問を再びしてくる。


「それじゃあ、もうこの際だしもう1つ聞くけど、学校で私を避けていた理由を教えて」

「それは、好きな人が出来たって聞いたから。俺は離れた方がいいのかなって思って」


俺の答えにキョトンとした顔で俺の顔を見つめてくる。

そして、1つ大きなため息をしてからなにか呟いた。


「馬鹿っ。私が悩んでたのはどうなるのよ……」

「えっ?」

「もう!なんでもないっ!」


松村さんはそう言って、残っていたカフェオレを一気に飲み干してしまった。

俺は何とかしないとと考えていると、俺の手元にある紙袋に目がいった。それは、さっき村岡のおばちゃんがくれた浴衣だった。


『ほら来週あたりに花火大会あるでしょ。それに着ていけるかなと思って』


その言葉を思い出し、俺はあることを提案する。


「テスト勉強を手伝ってもらったお礼もまだしてなかったし、今回の嘘ついちゃったお詫びに、来週ある夏祭りに一緒に行く?屋台とか奢らせて貰うよ」

「夏祭り!咲音も行きたい!」


俺の提案にさっきまで黙っていた咲音ちゃんが真っ先に乗って来てくれた。

多分咲音ちゃんなりにこの重たい空気を和ませようとしてくれているのだろう。


「だめ」


しかし、咲音ちゃんの頑張り虚しく即却下されてしまう。

俺は断られるとは思っておらず、また何かないかと考えていると松村さんは続けて口を開く。


「テスト勉強のお礼が夏祭りに行くことは良いよ。でも、今回の嘘のお詫びはまた別にしてもらうから」

「へ?」

「わかった?」

「は、はい」

「やったー!ヒカルンお兄ちゃんとお祭り!楽しみ!」


松村さんの勢いに押されてそのまま了承してしまった俺に対し、咲音ちゃんは満面の笑みで喜びを噛み締めていた。


それからは、重たい空気はなくなり楽しく3人で他愛もない話に花を咲かせた。


「それじゃあ、そろそろ帰らないと。ご飯の用意しないとだし」

「もう、こんな時間か。そうだね」


そう言って俺たちは会計を済ませて店を出た。


「咲音ちゃん、またね」

「またね!お祭り楽しみ!」

「あっ、松村さん。お祭りの日の詳しい時間とか話したいから連絡先交換しよ」

「うん!」


キラキラした笑顔で了承してくれた彼女の顔はとても可愛らしかった。

それから、連絡先を交換し確認のためによろしくスタンプを送り合う。


「それじゃあ……」

「待って」


俺が用事も終わり立ち去ろうとすると、松村さんが呼び止めてきた。


「わ、私も、な、名前で呼んで」

「ん?」

「私も咲音みたいに名前で呼んでよ。ほ、ほら、咲音も松村だし分かりにくいでしょ?だめ?」


そんな風にうるうるした目で頼まれては断る訳にはいかない。


「分かった。これからは名前で呼ぶよ、ひ、陽菜」

「ありがと、輝っ!またねっ」


陽菜はそう言って足早に咲音ちゃんと一緒に去っていってしまった。

俺は彼女が俺の名前を呼んだことに対して、まるで通り魔に刺されてしまったかのような衝撃を受けしばらくそこに立ち止まってしまった。

あんな事されたらイチコロだ。


「ずるいなぁ」


俺は名前は呼ばれた余韻を感じながらショッピングモールを後にしたのだった。



――――――――――



お待たせしましたー!

いよいよ、松村陽菜によるデレデレが少しずつ始まります!


お楽しみください!

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