第14話 転校生がやって来た

「――おはよう輝。」


ある日、自分の席で本を読んでいると登校してきたばかりの隆貴が話しかけて来た。


「おはよう、隆貴。テンション高いな。」

「そりゃあ、今日はなんて言ったって転校生が来る日だぞ?」

「転校生……?」


聞き慣れない単語に思わず疑問符を浮かべてしまう。


「知らないのか?今日、転校生が来るって。学年の間でも話題だぞ。しかもその子は女の子で、このクラスに入ってくるって噂だ」

「誰がどこでそんな情報を仕入れたんだか」


たまにいるよな。

裏で先生と繋がってるんじゃないかと疑いたいたくなるくらい学校の情報に詳しい奴。


「輝はそういうことで騒がない奴だったけど、今回は一段と興味なさそうだな」

「別に、いつもと変わらんぞ」

「そうか?ない訳じゃないんだが」

「……それじゃあなんかあったな?」


詮索しようとしてきた彼に目を細めて冷たい視線を送れば、隆貴は焦るように胸の前で両手を振った。


「そ、そんな怒るなって。ったく、冗談の通じねぇ奴だな」

「冗談を言う方が悪い」

「お前はもう少し俺のノリに乗ってくれよ」


文字に起こせば感じの悪そうな会話に見えるが、案外そうでもない。

俺だって本気で怒っているわけではないし、隆貴自身もそれを分かっているのか顔に笑みを浮かべている。


「……まぁ、お前がノってきたらたらそれはそれで違和感だろうけどな」

「何が言いたいんだよ」


隆貴の言葉にフッと鼻音をたてて笑えば、隆貴もにししっと口角を上げて笑った。

チャイムが鳴り隆貴も含めた各々が自分の席に戻ると、担任が教室に入ってくる。

教壇に立ってクラスを見回すと、口を開いて喋り始めた。


「えー、皆も知っての通り、今日うちのクラスに転校生が1人入ってくることになった」


先生の言葉を聞きざわめく教室(特に男子が一段とテンションを上げている)。

おそらく噂のせいだろう。


「いいぞ、入ってこい」


教室の外に担任が呼びかけると、扉がガラリと開く。

するとそこから、一人の女子が「おはようございまーす!」と元気よく歩いて出てきた。


「うおっ!可愛い!」

「元気な子キタッ!」


歓喜する男子。

それだけではなく、見渡せば女子たちの表情も幾分か明るくなっている。


「美貌」と固く表現するよりも、男子が語るように「可愛い」と柔らかく表現したほうが彼女には合っているだろう。

整った目鼻立ちに長いまつ毛、そして茶髪のボブヘアーからは万人受けしそうな可憐な雰囲気を感じる。


瞳まではいかないものの、彼女も相当な顔の持ち主だった。

担任の隣まで来た転校生は、渡されたチョークで黒板に綺麗な文字を書いていく。

書き終えるとチョークを置き、くるっと振り返って明るい笑顔を浮かべた。


西原菜月にしはらなつきです!見た目と名前の通り明るさが取り柄です!この学校には父親の仕事の関係で転校してきました。仲良くして欲しいです!よろしくお願いします!」


勢いがありながらも丁寧にお辞儀をした西原に、クラスメイトは拍手を送る。


「それじゃあ、西原はあそこ。田原の隣の席だ。学校の事はあいつに聞いとけ」


そのまま担任に指示された席につき、彼女は右隣に振り返った。


「よろしく!お隣さん!」


あまりの元気の良さと周囲からの嫉妬の視線に、思わずため息をついてしまう。

どうしてこいつが俺の隣の席なんだ。隣の空席はこの転校生の伏線だったのか。

今まで教室の隅で一人伸び伸びやれていたというのに。


「よろしく」

「せっかくのお隣さんなんだし仲良くしようね。名前は?」


それどころか、彼女は名前を聞いてきた。


「田原輝」

「輝君か!私この学校の事分からないから色々教えてね」


転校生とそんな会話をしている中、先生は色んな連絡事項を伝えていく。

ふと何かを感じ、視線を左の窓側の席に移していくと、何故か松村さんと目が合ったがすぐにそらしてしまった。


朝のホームルームが終わり、転校生はその性格のお陰かそれても美貌のお陰かあっという間にいろんな人に囲まれた。

俺は少しいずらいなと思い、1限が移動教室なので早めに移動することにした。

すると、こんどは背中に重いものがのしかかって来た。


「ひっかる~」

「隆貴。重たい」

「いいじゃん。幸運星人輝の運を貰ってるんだよ」

「幸運星人?」

「そうじゃん。美少女転校生の隣の席なんてどのくらいの確率だと思ってんだよ!その運分けろよ~」


他称幸運星人からすると、運は他人に分け与えられるものではないと思うがそんな事言っても隆貴には通じないだろう。

更に、少し気になっている人から別の人が好きだという恋愛相談を受けるというのは運があるのだろうか。

教えてくれ幸運星人とやら。


移動教室を終え、静かに1人教科書を読んで暇をつぶしていると(隆貴は後から来た他の友達の所に行ってしまった)、こんどは後ろ肩を叩かれる。


「ねぇ、どうして先に行っちゃうの!?」


そこには、さっき転校ほやほやの西原さんが頬っぺたを膨らませて立っていた。

その姿は不覚にも可愛いと思ってしまった。


「君は私に学校の事色々教えてくれるんでしょ?おいてかないでよ。移動教室も皆に教えて貰わなかったら分からなかったよ?」

「それはごめん。てっきり同性の子たちと行くのかと思ってた」

「もぉ、次からはよろしくね!」


移動教室でも席順が教室と変わるわけでは無いので、彼女はそう言って俺の左隣の席に座る。


「あ、あと、私の教科書まだ届いてないから、見せてね」


そう彼女にも先生に言われ、俺は仕方なく彼女と机をくっつけて一緒に俺の教科書を共有して授業を受けた。

授業後に俺の教科書が落書きだらけになったのはここだけの話。



――――――――――


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