第13話 会いたくないと会いたい

「田原くん、久しぶり」


振り返って、俺にそう向けた松村さんの顔はどこか少し暗いような気がした。


「松村さん、どうしたの?少し元気がないように見えるけど」


俺がそう尋ねると、松村さんは少し考えた後に


「……田原君、ちょっと相談したいことがあるんだけど……」

「もちろん、どうしたの?」


彼女は意を決して俺に声をかけてきた。

俺は深刻そうな話に聞く準備をすると、彼女は一度深呼吸をしてから、心の中に溜まった思いを少しずつ言葉にしていった。


「実は……最近、自分でも気づかなかったんだけど、ある人のことが気になってるんだ」


俺も少し気になっていた内容だったために、少し驚いた。

そして心臓の辺りがチクっと痛んだ。


「その人とは、時々しか会わないんだけど、彼のことを考えるとドキドキするし、なんだか胸が苦しくなって……。妹の咲音とも一緒に遊んでくれたりして」


松村さんはその気持ちに名前をつけられていなかった。

傍から聞いたらそれは確実にに決まっているのに。

だけど、多分それは俺の知らない人だろう。


「松村さん、それって……」


俺は少し言い淀んだが、続けて静かに言った。


「それって、恋だと思うよ」

「そうなのかな……やっぱり、私、彼のことが好きなのかも……。ありがとう、田原君。こうやって話を聞いてくれて、本当に助かったよ」

「うん。頑張って、上手くいくように応援してるね」


俺がそういうと松村さんは笑顔でそう感謝してくれた。

俺はその話を聞いて今の俺の中で留めておくことにした。俺が中原輝だと言うこと、そして確実に抱いていたこの思いも。


それからの会話の内容は俺は上の空であまり覚えていない。

それから俺は松村さんを家に送ってから、家に帰った。


「良かった。連絡先を交換してなくて。これで本当に関わることがないだろう」


俺には勿体無いんだ。

元カノの時だってそう、俺はまた誰かに、誰かに……。

そんな事を考えながら俺は一日を終えた。


――――――――――


▼松村陽菜視点▼


――――――――――



「田原君、ちょっと相談したいことがあるんだけど……」

「もちろん、どうしたの?」


私は意を決して彼に声をかけた。普段なら友達に恋愛のことを話すのはためらわれるけど、田原君なら何故か信頼できる気がした。

彼は真剣な表情に変わり、私の話を待つように立ち止まった。

私は一度深呼吸をしてから、心の中に溜まった思いを少しずつ言葉にしていった。


「実は……最近、自分でも気づかなかったんだけど、ある人のことが気になってるの」


田原君の表情が少し硬くなるのを感じたが、彼は何も言わずに私の言葉を待っていた。


「その人とは、時々しか会わないんだけど、彼のことを考えるとドキドキするし、なんだか胸が苦しくなって……。妹の咲音とも一緒に遊んでくれたりして」


私はその感情が何なのか、自分でも明確に理解できないまま話していたが、田原君はじっと聞いてくれていた。


「松村さん、それって……それって、恋だと思うよ」


その言葉に、私の心は軽くなった気がした。

彼に話したことで、自分の気持ちが少し整理できたようだった。


「そうなのかな……やっぱり、私、彼のことが好きなのかも……」


自分の口からその言葉が出た瞬間、私は改めて自分の気持ちを確認することができた。

田原君は、少し考え込むようにしてから、優しく笑って言った。


「ありがとう、田原君。こうやって話を聞いてくれて、本当に助かった」

「うん。頑張って、上手くいくように応援してるね」


それからしばらく無言の時間が続いたが、ここで私は気になっていたことを聞くことにした。


「田原君って兄弟とか居たりする?」

「いないよ」

「それじゃあ、中原って名前に聞き覚えは?」

「ないな」

「そっか」


これで、田原君と中原君が関係が無いことが明かされた。

その後は何度か田原君に話題を振ってみたがどれも反応が悪く5分くらい無言で並んで歩いて、そうして私は田原君に家まで送ってもらった。

さっきの言葉で、田原君は中原君とは別の人だろうなと思った。

でも、少しいつもよりも暗く感じたのは気のせいだろうか。


「ただいま~」

「おかえり、お姉ちゃん。お兄ちゃんと一緒に帰って来たの!?」


そう言って咲音は玄関のドアを開けたが、そこにはもう田原君の姿は無かった。

いつもなら咲音がバイバイするまでそこで待ってくれているはずなのに、何か急用でもあったのかな。


「お兄ちゃん、もう帰っちゃったみたいだね」

「え~、また会いたかったのに」

「またすぐ会えるよ」

「ホント!?お兄ちゃん次いつ来る?」

「明日にでも聞いてみるね」

「うん!」


またすぐに会えると知ると咲音はリビングの方に走って行ってしまった。

私は、自分の部屋に戻り鞄を置き、ベッドにダイブする。


「そう言えば、中原君の連絡先知らないな。次あった時には絶対と貰わないと会えないな」


そんなことを考えながら私は一日を終えた。


――――――――――


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