7月 真実はいつも1人
第12話 それぞれの思い
2年も半分が終わろうとしているが、別にこれといって変わったという事はなかった。
変わったと言えば席くらいで、俺は窓側端の席ではなくなり、廊下側端の席に。
隣の席は松村さんでも、男の子でも女の子でもなくなり、空席だ。
どうしてこんなところに空席を作るのかは分からない。
夏休みが迫ってきているせいか、普段のクラスの喧騒より幾分か騒がしいクラスを眺めながら静かに席についていた俺にに1つの影がさす。
「よう輝。なんだか元気なくないか?」
「そうか?」
俺に話しかけてきた隆貴は何故か少しにやけていた。
最近は松村さんとの勉強会もなくなり、会話も挨拶くらいになってしまったため少し悲しく思えてきていたのは事実だがこいつにそんなことを言う訳にはいかないため、話を逸らす。
「そんなお前はいつもと変わらないな。なにか週末にいいことでもあったのか?」
「よくぞ聞いてくれた。大スクープがあるぞ」
「大スクープ?」
俺がオウム返しで隆貴の言葉を繰り返すと、彼は顔を近づけて小声でスクープ内容を口にする。
「あのクラスのマドンナである松村さんに、彼氏が居るんじゃないか説がまことしやかに唱えられている」
その内容に俺は何故か少し痛む心臓を押さえながら会話を続ける。
「彼氏?」
「あぁ。他のクラスの奴が言っていたんだが、見かたらしいんだよ。松村さんと、松村さんの妹と仲良く三人で手を繋いで歩く男の姿を。結構イケメンだったらしいぞ」
その言葉に、俺はまた心臓が痛む。
彼女は俺だと気づいてはいないはずだが、中原輝とは結構仲が良くなったと思っていた。
しかし咲音ちゃんも心を許している男が他にもいるのならば俺はたぶん邪魔なのだろう。
「松村さん今まで浮いた話なんて全く聞かなかったけど、彼氏居たからなのかな」
「しらね」
俺は少し強がってそんな答えしかできなかった。
「お前って本当にこういう話興味ないよな」
「まぁ、だってウワサだろ」
「まあ、そうだな。確かに噂かもしれないけど、もし本当に松村さんが誰かと付き合っているなら、学校中に大ニュースになること間違いないしな」
隆貴はそう言いながら、興味津々な顔でクラス中を見回していた。
彼にとっては、まさに面白い話題の一つに過ぎないのだろう。
俺は、なんとか気を落ち着かせようと深呼吸をする。
しかし、隆貴の話が頭の中でぐるぐると回り、松村さんのことを考えずにはいられなかった。
「まあ、思いを寄せていた男たちには絶望なウワサだろうな。まぁ、俺らには関係ないか。夏休みも近いんだし、楽しいこと考えようぜ!」
「そうだな、夏休みか。何か予定あるのか?」
隆貴は俺の肩を軽く叩いて、明るい笑顔を見せた。俺も無理にでも笑みを浮かべ、頷き、話題を変えようと、俺は隆貴に尋ねた。
「俺?まだ特に決めてないけど、海とか行きたいな。お前も来るか?」
隆貴はそう言って、少し楽しそうに話し始めた。彼の元気な様子に、少しだけ心が軽くなった気がした。
「まあ、考えとくよ」
俺は曖昧な返事をして、その場をやり過ごした。
その日の放課後、家に帰る途中で俺は自然と松村さんのことを考えていた。彼女の笑顔や、無邪気な咲音ちゃんの姿が頭に浮かぶ。彼氏がいるなんて、そんな話は聞いたことがなかったが、もしそれが本当なら、俺はどうすればいいのだろう?
そんなことを考えながら歩いていると、ふと目の前に見覚えのある影が現れた。
「松村さん?」
気がつくと、目の前に松村さんが立っていた。
彼女は少し驚いた様子で俺を見つめていたが、すぐに微笑んだ。
――――――――――
▼松村陽菜視点▼
――――――――――
「ね、ねえ陽菜ちゃん」
私は朝来て早々に待ってましたと言わんばかりの勢いで話しかけられた。
「その、この間、○○幼稚園の運動会があったの知ってるよね?」
そのセリフを聞き私はびくっとしてしまう。
そんな私のドキドキなど知る由もない彼女は話を続ける。
「その運動会に私の友達も顔出したらしいんだけど、陽菜ちゃんが妹ちゃんと男の人と三人で手を繋いでいるのを見かけたらしいんだけど」
「えっ、あ、うん」
まさか、あの幼稚園に同じ学校のこの弟さんが通っているとは思いもよらなかった。
「松村さんって兄弟は妹だけだったよね?」
「う、うん」
「そ、それじゃあその男の人って彼氏!?」
「か、彼氏とかそういうのじゃないけど……」
きゃあ、と黄色い声が上がる。
私が言葉に困っているなか、何やらいろいろ考察して色んな噂が行きかってしまった。
私は中原君のことがたぶん好きなのだろう。
今日そんな話をされたせいで気付いてしまったこの気持ちは抑えきれず、彼ことを考えているうちに一日が過ぎ去ってしまった。
その日の放課後、家に帰る途中で私は自然と中原君のことを考えていた。
彼の無邪気な笑顔や、咲音と楽しそうに遊ぶ姿が頭に浮かぶ。
私は彼とどうなりたいのだろうか?そんなことを考えながら歩いていると、後ろから声をかけられた。
「松村さん?」
振り返るとそこには田原君の姿があった。
久しぶりにみる彼の姿に何故か少し安心して笑みが零れてしまった。
――――――――――
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