第10話 咲音冒険譚〜女児の勘は鋭い~
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▼松村咲音視点▼
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「お姉ちゃん、おなかすいた〜」
お姉ちゃんにはリビングにいてって言われたけど、おなかとせなかがくっつきそうになったのでお姉ちゃんの部屋に来た。
「そ、そうね。そろそろお昼ご飯にしよっか。作るからもう少し待ってて」
そう言ってお姉ちゃんは何故かお顔を真っ赤っかにして急いで部屋を出ていった。
私はお姉ちゃんの部屋に残されたお兄ちゃんと2人きりでお話するには今しかないと思った。
「お姉ちゃんのご飯美味しんだよ!」
「ご飯作るの手伝わなくていいのかな?」
「大丈夫!お兄ちゃんは咲音とお話しよっ!」
「そうだね。邪魔になったらいけないしね」
私はお兄ちゃんと話しながら、お兄ちゃんのあぐらの中に座る。
お兄ちゃんは何事もないように私の頭をなでなでしてくれる。その感覚はあの時のものにそっくりだった。
「お兄ちゃんってさ……」
「ん?」
「お兄ちゃんって、ヒカルンお兄ちゃんだよね?」
私が聞きたかったのはこのこと。
おととい感じたあの安心感を確かめたかったの。
「だ、誰かな〜。ヒカルン?お兄ちゃん?」
お兄ちゃんは頭を掻きながら知らないふりをした。
だけどお兄ちゃん、なんで隠そうとするのかは分からないけど、咲音の目はごまかせないよ。
私は立ち上がり、お兄ちゃんの方を向く。
座ったお兄ちゃんの頭が私の伸長よりも低く、私はお兄ちゃんの前髪を上げた。
「ほら、ヒカルンお兄ちゃんじゃん!」
「……バレちゃったか。お姉ちゃんにはバレてないんだけどな~」
「ヒカルンお兄ちゃんはどうして秘密にしてるの?」
私はお兄ちゃんの前髪を戻してそう聞くと、お兄ちゃんは前髪を整えながら答えてくれた。
「ん~、咲音ちゃんには少し難しいかもしれないけど、簡単に言うとお姉ちゃんに迷惑はかけたくないんだ。咲音ちゃんを助けたのが俺だって知らない方がいいんだ」
「そうなんだ」
前に、幼稚園の先生が言っていたことを思い出す。
『大人になるとね、皆と仲良くするためにいろんな顔を持ってるんだよ。おりこうさんの顔。悪い人の顔。たくさん』
お兄ちゃんもきっと大人なんだ。
大人に少し憧れる私はその気持ちを分かった気になりたかった。
だから分かりもしないのに分かったふりをした。
「咲音はね、どっちのお兄ちゃんも大好きだよ」
「ありがと、咲音ちゃん。俺も頑張るね」
私の手を握ってそういうお兄ちゃんの目は、何かを決心したそんな目だった。
「そんなヒカルンお兄ちゃんにお願いがあるの」
「なに?」
「咲音の幼稚園運動会に来て欲しいなぁ~。パパもママも来れないんだって」
「分かった。運動会行ってあげる」
「やった!」
お兄ちゃんとの運動会を約束した時ちょうどお昼ご飯を作り終わったお姉ちゃんに呼ばれて、それからみんなで仲良くご飯を食べた。
「お兄ちゃん、またね」
「またね、咲音ちゃん。松村さんも今日はお邪魔しました」
「うん。テスト頑張ろうね!」
「じゃあ、お邪魔しました」
お兄ちゃんは夕方にそう言って帰って行った。
お兄ちゃんのを見送ってから、私とお姉ちゃんの二人で夜ご飯を食べ始める。
「咲音、随分田原君と仲良くなったね。どうしたの?」
「お姉ちゃん、お兄ちゃんのこと好き?」
「ぶはっ。さ、咲音!?き、急にどうしたの!?」
お姉ちゃんは飲んでいたお茶を吹き出した。
「お姉ちゃんがお家に連れて来るなんてはじめてだったから、お兄ちゃんのこと好きなのかな~って」
「そ、それは咲音がまた会いたいってしつこいから……」
「咲音はお兄ちゃんのこと好きだよ。お兄ちゃん優しいし、楽しいもん。咲音、ずっとお兄ちゃんと一緒に遊びたいなって思ってる。ヒカルンお兄ちゃんだってそうだよ」
お姉ちゃんは私の言葉に少しだけ目を細めた。
「田原君も中原君も優しい人だし、咲音がそう思うのも分かるよ。でもね、好きっていう気持ちはもっと複雑なものなんだよ」
「ふくざつ?」
私は首をかしげた。
お姉ちゃんは少し考え込んだ後、優しい声で続ける。
「うん。友達として好きな気持ちもあるし、家族として好きな気持ちもある。そして、恋人として好きになることもあるの。どの好きも大切だけど、それぞれ違うんだよ」
「咲音、先生に聞いたことあるよ。好きって言うのはね、また何でもない時に会いたいって思うことなんだって」
私がそう言うと、お姉ちゃんは顔を赤らめて黙ってしまった。
それからはいつも通り過ごした。
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▼咲音の日記▼
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お姉ちゃんにはヒミツだよ!
今日は、ヒカルンお兄ちゃんがいえに来ました。
ごはんをいっしょに食べてたのしかったです。
うんどうかいに来てくれるやくそくをしたのでうんどうかいが楽しみです。
お姉ちゃんが好きはふくざつって言ってました。
咲音は分からないけど、みんな大好きです!
お姉ちゃんも、ヒカルンお兄ちゃんも、パパもママも。
先生もだよ。
※咲音ちゃんの幼稚園の先生になったつもりで、返信をコメント欄に書いてね!
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