第8話 勉強会 part 1

放課後、図書室。


「よし、それじゃあ勉強始めよっか」


まだテスト週間ではないし、放課後は図書室は自習室として開放されることになっているが、そのことはあまり知られておらず、いるのは俺と松村さんだけ。

どうしてこんなことになったのかは俺が聞きたい。

あの後、松村さんの何故か強い意志と、可愛い子に勉強を教えてもらえるという一石二鳥なことを男の俺が断れるはずもなくこういう状況なのだ。


「田原君は、何が一番苦手なの?」

「英語かな」

「それじゃぁ、まずは英語からしよっか。まずはどこが出来ないかを知るために、この問題を解いてみて」


郷に入っては郷に従え。

この状況に疑問を持つことを止め、俺は流れる水に身を任せ渡されたテキストの指摘された問題を解く。


「できた」

「おっ、早いね~。どれどれ」


 『次の英文を日本語訳しなさい。

 The docter treated my wound right away.』

 『この医者は、私の臓器を移植した。』


問題と俺の回答を読み上げた松村さんは、一瞬沈黙をした後に再び口を開いた。


「って…お医者さんがマッドサイエンティストになってる!怖い怖い」

「違うのか。けっこう自信あったのにな。」

「読んでみておかしいと思わなかったの?答えは、医者は私の傷をすぐに手当てしてくれた、だよ。」

「まぁ、これはたままたま分からなかっただけ。次の問題はイケてるはず」

「ホントかなぁ~。どれどれ」



『次の英文を日本語訳しなさい。

 My sister is in the front row in the picture.』

『私の姉はゆっくりフルーツを写真に変えた。』


「お姉ちゃんはいつからマジシャンになったんです?」

「違ったか」

「違います。frontはフルーツではなく、前、と言う意味です。正解は、私の姉は写真の中で一番前の列に居るですよ。よくこれまでのテスト乗り越えてきましたね」


俺の英語の出来にびっくりしたのか、それとも呆れたのか分からないような顔で俺にそんなことを言ってくる。

そんな事言われても俺は今までのテストはテキスト丸暗記一夜漬けで乗り越えて来たから何とも言えない。

それから俺は松村さんに鬼のような英語だけならず、他の教科もレクチャーを受けた。




「……どうしてXが4になるんですか?それにそもそも、どうしてその式が出るんですか……」

「だってさっきはこの式使ったじゃん」

「それはこの図形が円だからで、今回は三角形です」

「なるほど~。それじゃあこの式か」

「そうです。テストまでにしっかり公式を覚えないといけませんよ」

「でも、公式分かってもその公式使うまでに辿り着かないんだよな」


だから定期テストは丸暗記という、脳筋な方法にたどり着くのである。

俺のそのセリフに松村さんは「仕方ありませんね」と言って自分の鞄の中から一冊のノートを取り出した。


「これを貸してあげよう。テッテレー、秘伝ノート」


そのツッコミどころ満載の松村さんに俺は呆然としていると、そのまま言葉を続けた。


「これは、先生が授業中に出すよって言ってたやつとか、出そうだなと私が思った問題、公式をまとめた秘伝ノートです!」

「へ~、流石学年上位」

「まぁ、私も勉強はできる訳じゃないからこういうことしておかないとダメなんです。これ、今回の範囲の公式と、出そうな問題で、これが分かれば多分?絶対?解けるはずです」

「これは助かる」


それから俺はもう一度勉強のスイッチを入れ直し、黙々と問題と向き合った。




「そろそろ学校が閉まる時間だし帰ろっか」


俺が勉強に集中していると松村さんがそう話しかけてきた。

勉強のキリもよく、いい時間になったので私は田原くんにそう提案した。


「もうそんな時間?そうだね」


図書室の窓から見える空がオレンジがかっているのに驚きながらも、私たちは道具を片付け帰途についた。


「今日はほんとにありがとう。松村さんの教え方分かりやすかったし、今回のテストは何とかなりそうだよ」

「ほんと?それなら良かった」


2人並んで帰る私たちは、今日の勉強の感想を話し交差点に差し掛かる。


「俺の家こっちなんだけど、松村さんはどっち?良かったら遅いし、送るけど」

「私もこっち。やっさし〜、それじゃあ送ってもらおうかな」


俺がお礼も兼ねてそう尋ねると、松村は何故か含みのあるような笑みを浮かべてそういった。


「松村さんはどうして俺に勉強教えようと思ったの?」

「ん?どうして?」


俺は松村さんに質問すると、彼女は俺の顔を覗き込むようにして尋ねてくる。


「いや、俺ってクラスでは目立ってないし、松村さんとも話したことなんて業務連絡ぐらいだよね?それに対して松村さんは、可愛くてみんなの人気者で……」


俺の隣にはみ合わない。そう言いかけて辞めた。

すると、俺の様子を見て彼女は答えてくれた。


「特に理由はないんだけどー、強いて言えば仲良くなってみたかったからかな。ほら、去年も同じクラスだったけど、話したことはほとんど無かったし。でも、優しい人ってことは知ってたから。それに……」

「それに?」

「……なか」

「なか?」

「じゃなくて、ほら田原君この前有村さんと別れたって聞いたから。どうしてなのかな~って気になって」


松村さんがなにか誤魔化したような気がしたが、それは深堀することはせず俺は素直に彼女の問いに答えそれを聞いた彼女は哀れんでくれた。

最近は元カノのことは忘れかけていたため、すこし嫌な思い出を思い出してしまったが、その反面、同性ではなく異性に話を聞いてもらい肯定してもらうことでどこか心に余裕が出来ている気もした。

そんな話をしていると、あっという間に松村さんの家に到着した。


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