第5話 マドンナ姉妹と公園で再遭遇
それから俺の破局の噂もみんなが興味が無くなった頃。
席替えでクラスのマドンナが隣の席になっても、俺の生活はほとんど変わることはなかった。
ただ、少しだけ窓の方を向く時間が増えただけで、話しかけられたり、ものを貸したり、そんな出来事はなく数日があっという間に過ぎていったある日の夕暮れ時。
(疲れた~)
俺はバイト帰り、大きく赤く染った空に手のひらを掲げて伸びをする。
(やっぱりこの格好は疲れるな〜)
今日のバイトは外の日(着ぐるみの付き人)だったため、髪上げコンタクトスタイルだったが、この格好は気を張るのでいつもより疲れるのだ。
こういう日はご飯前だけど帰り道のコンビニでアイスクリームを買い食いするのが日課になっている。
「涼し」
コンビの自動ドアをくぐると中の冷たい風が付かれて、太陽に熱された俺を冷やし思わず声に出してしまう。
買うものも決まっていて、二人で分けられるようになっているチューブ状のチョココーヒー味棒氷菓である。
俺はアイスを購入した後、向かいの公園に行き、木で影になっているベンチに腰掛ける。
公園には何人か小さな子供やその保護者と思われる人たちで賑わっている。
「うめぇ。……ん?」
俺は買ったアイスの一人分を口にしながら、公園の人たちを見ているとその中に見覚えのある二人がいるのが見えた。
向こうの一人もこちらに気が付いたのか、俺の方に駆け寄って来る。
「……んお兄ちゃん?」
「
「ヒカルンお兄ちゃんだ~!」
咲音ちゃんは勢いのまま俺にしがみ付いてきた。
俺が頭をなんとなく撫でてやると、俺のおなかにうずめていた顔をこちらに向けて満面の笑みで「何でここにいるの?」と尋ねてきた。
「お仕事後の寄り道」
「よりみち!咲音と一緒!」
「そうなんだ。ご無沙汰してます」
俺は咲音ちゃんに遅れて俺の方に歩いてやって来た姉である
隣の席になったが話すのはあのカフェ以来だ。
この格好でもう一度関わることは無いとは思っていたんだが。
「久しぶり。また会うなんてホント偶然だね」
「松村さんは、咲音ちゃんの付き添い?」
「うん。どうしてもブランコに乗りたいらしくて連れて来たの。
「……中原さ。あ、俺は、バイト帰りの息抜きにアイスを」
一瞬中原さんと呼ばれ誰かと思ったが、そう言えば自分の名前を偽っていたことをぎりぎりで思い出し会話を続ける。
「あ、これもう一個あるけど食べる?」
「たべる!」
「咲音、ご飯前だからやめときな。晩御飯が食べられなくなるよ」
お姉ちゃんにそう言われ、咲音ちゃんは少し悲しそうにしゅんとしてしまった。
「お姉ちゃん冷たいね〜。半分くらいなら良いじゃんね~。ほら、食べな。お姉ちゃんには内緒ね。しー」
「ないしょ!しー」
そうして俺と咲音ちゃんは並んでベンチに座り、チューチューとアイスを食べ始める。
「内緒って丸聞こえだからね。ご飯食べられなくても知らないからね」
「何言ってるの?松村さんも咲音ちゃんの残りの半分食べるんだよ?」
「え?」
「俺が食べるのはダメでしょ?」
俺がそう言うと松村さんは仕方ないなと言わんばかりに大きくため息をついた。
それからしばらくは、のんびりと景色を眺めながら素朴な感想を言い合い黙々とアイスを食べる時間が続いた。
「ヒカルンお兄ちゃん、咲音を肩にのせられる?」
先に食べ終わった咲音ちゃんがそんなことを訪ねてきた。
「肩車のこと?できるけど」
「やってやって!」
肩車は流石に無許可でやる訳にもいかず、俺は松村さんの方に目くばせをする。
「嫌じゃないならお願いしてもいい?私も何度か頼まれたんだけど流石にできなくて」
「なるほど」
少し疑問に思うことが浮かんだが、それは赤の他人が聞くようなことでもないので聞かないでおいた。
「それじゃあ、咲音ちゃん!行くぞ!」
「うん!」
「よいしょ~」
俺はそう言って、咲音ちゃんを肩車してあげる。
「きゃ~!!高い高い!お姉ちゃん、見て見て!」
「良かったね」
「お姉ちゃん、写真撮って!」
咲音ちゃんにそう言われて松村さんは「はいチーズ」と、スマホで俺と咲音ちゃんのトーテムポール状態のの写真を撮る。
「ヒカルンお兄ちゃん、あっち行って!」
「よーし。走るから捕まってろよ~」
「わ~ぃ!」
それから10分程度、咲音ちゃんが俺の肩の上というコックピットに乗って俺を操縦する時間が続いた。
「はぁ、はぁ。疲れた」
「お疲れ。咲音も楽しそうだったし、ありがと」
「楽しんでくれたならいいよ、これくらい。咲音ちゃん寝ちゃったね」
「そのくらい楽しんだってことね。そろそろ帰らないと」
「ほんとだ。もうこんな時間」
気付けば公園に来てから一時間以上は経ってしまっていた。
「家まで送ろうか?そろそろ暗くなってくる時間だし、寝た咲音ちゃんを運ぶのは女の子一人じゃ大変でしょ?」
「いや、そこまでお世話になるのは申し訳ないから」
そう言って、松村さんはベンチで横になっている咲音ちゃんを抱えようとしたが、眠ってしまった人間というものは小さく可愛らしい女の子でも非常に重くなるもので持ち上げるのでもやっとだった。
「……やっぱりお願いできる?」
「もちろん!今日楽しませてもらったお礼だよ」
そうして俺は咲音ちゃんをおんぶして、松村さんと並んで家まで送って帰った。
「……ん、ん」
松村家に到着するちょうどそのころ、背中にいた咲音ちゃんが目を覚ました。
「おはよう咲音ちゃん。家に着いたよ」
「ヒカルン、おにぃちゃん?」
「また遊ぼうね」
俺はそう別れを告げながら咲音ちゃんを下ろし、松村さんに託す。
「うん。ばいばい」
「ほんとにありがと。また助けられた。いつかお礼するから」
「いいよ。こんなことでお礼なんてされたら、一生お返しが終わらないから。ばいばい」
俺はそう言って、塩っぽく返事をして松村宅を後にした。
翌日筋肉痛になって、運動不足を実感したのはここだけの話。
――――――――――
この度は数ある作品の中から
「迷子の妹を送り届けた着ぐるみの中の人が俺だと気づいたクラスのマドンナがぐいぐいやって来る」
を読んでいただきありがとうございます!!!!
思い切って書き始めた作品ですが、フォロワーがおよそ100人と好評のまま5話を迎えることができ、週間ラブコメランキングも100番台になることが出来ました!
続きが読みたい!など思った方はぜひ、★やコメント、♥などを付けてくれると嬉しいです。
今後こうなって欲しい、かわいいなどコメントを残してくれると嬉しいです。
みっちゃんでした( ´艸`)
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