第2話 クラスのマドンナと一昼だけの関係?
俺と同じ学校同じクラスでマドンナ的存在の彼女は、肩まで伸びた明るい栗色の髪がふんわりと揺れ、目鼻立ちはマドンナの名に恥じないほど整っている。
彼女の大きく澄んだ瞳は、透明感があり、見る者を引き込むような魅力があり、白い肌に細身の体型ながらも女性らしいラインがあり可愛らしさを引き立てている。
俺のような陰キャが関わっていい人種ではない。
俺はさっき会った彼女のことを思い返しながら休憩をしていると、村岡のおばちゃんが戻って来たので声をかける。
「俺行きませんよ。まだ、バイトの時間残ってますし」
バックヤードに戻り、
「ダメよ~。彼女には
「嫌ですよ。彼女俺のクラスメイトですけど、話したことないし気まずいだけです」
「クラスメイトなの!?いや~、運命じゃない!なおさら行かなきゃね。私他の人に、田原君が早退するって伝えて来るわ~」
「っちょ、村岡さん」
俺の阻止もむなしく、村岡のおばちゃんはそそくさとどこかへ向かって行ってしまった。そうして、行かなければやることが無くなってしまった俺は、頭を回転させて考える。
助けたのが俺だと知ったら、松村さんはどう思うだろうか。
あんな陰キャに借りを作ってしまった、だろうか。
そもそも俺のことを知っているのだろうか。
知っていたとして、学校で話しかけられた時には他の男子から冷ややかな目線が来るに決まっている。
ここは、俺だと気づかれないようにするのが得策だ。
そう結論付けた俺は、運動するときのために持ち歩いていたコンタクトを付け、バイト仲間にワックスを借りて目にかかる髪の毛も掻き揚げる。
「伝え忘れていたけど……田原君、かっこいいわね。まるで別人みたいよ」
「そうですか?そうだといいんですけど」
「ん?あっ、場所は二階のカフェね」
村岡のおばちゃんは戻って来てそんなことを伝えると、ニヤニヤしながらまたどこかへ行ってしまった。
おばちゃんに言われ自分で鏡を見ても、自分なのか一瞬考えてしまうほどの変化を見てくれに加えた。
「よし」と気合を入れ俺は、村岡のおばちゃんが指定したカフェに向かった。
――――――――――――
ショッピングモール内のカフェに到着し、店内を見回す。
この時間は丁度人が多くなってくる時間だから、見つけられるか心配していたが、それは杞憂だった。
店の端の4人席に向かい合って座る見覚えのある2人の回りだけ別の世界なんじゃないかと思うくらいにキラキラしていた。
「……あの〜、松村さん、ですよね?」
俺は恐る恐るその2人に声をかける。
彼女も逡巡した後、俺が誰か気づいたのか笑顔で言葉を返してくる。
「あっ、ヒカルンの?」
「はい」
「先ほどは、本当にありがとうございました」
「いえいえ。ほんとはお礼なんて良かったんですが村岡のおばちゃん、あっ、一緒にいたおばさんが行けとうるさくて……」
「ヒカルンのお兄ちゃん?」
俺と松村陽菜がそんな会話をしていると、パンケーキを食べていた、さきねちゃんが不思議そうにこちらを見ていた。口の周りにはホイップクリームが髭のように付いている。
「そうだよ〜。お兄ちゃんがヒカルンに変身していつもみんなを見てるんだよ〜」
「それじゃあ、お兄ちゃんはヒーローだ!」
「そーだぞー。すごいだろ〜」
「うん!」
「さきねちゃん、ちょっと失礼するよ〜」
俺はそう言いながら、テーブルの上にあったティッシュを1枚手に取り、ほっぺのホイップクリームを拭き取る。
「ありがとうっ!」
その満面の笑顔は太陽よりも眩しくて、つい目を手で覆いたくなるほどだった。
寂しい時に一緒にいたお陰だろうかだいぶ心を許してくれているようだ。
「さきね、お兄さんが座れないから私の隣に移動!」
ずっと立ち話だったことに気がついたのか、松村陽菜はさきねちゃんに向けてそう言った。
「嫌っ!」
「嫌じゃないの!早くこっち来なさい!」
「いーやだっ」
「こらっ。お兄さんが困るでしょ」
「ヒカルンのお兄ちゃん、困る?」
そんな言い争いを見届けていると、急にさきねちゃんが俺に上目遣いで、さらに今にも泣きそうなウルウルとした目で問いかけてくる。
「こ、困らないよ」
断れるわけないでしょうがー。
俺の心がそう叫ぶことなぞ露知らず、俺の返事に満足し笑顔で隣の席をトントンと叩いているさきねちゃんの隣に招かれるまま腰を下ろした。
「うちの
「ほんとに大丈夫ですよ」
「何か頼んでください。ここは私が払いますので」
そう言ってメニューを受け取った俺は、ざっとメニュー目を通す。その間、チラチラと松村陽菜の方に何度か目をやる。肩にかかるくらいに切りそろえられた艶のある明るい栗色の髪、綺麗な目鼻立ち。改めて俺とカフェにいる彼女が、クラスのマドンナで人気者の松村陽菜であることを再確認する。
「ブラックコーヒーで」
俺は、カッコつけて飲んだこと無いものを頼む。
「飲めるんですか、すごいですねー。私はてんでダメで」
そんな事を言いながら、彼女は飲み物を頼んでくれた。
さっきまでの反応を見た感じ、俺が同じクラスの陰キャであることは気づいていないだろうが、可愛いこの前では格好つけたくなるのが男という生き物の性なので許して欲しい。
「あの、なんとお呼びすればいいですか?」
「まだ、名乗ってませんでしたね。
俺は、名前でクラスメイトとバレる可能性も危惧し、咄嗟に母の旧姓の中原を苗字として名乗った。
「咲音はね、松村咲音っていうの!漢字はね〜、花が咲くの咲くに、音楽の音って書くの!5歳!」
「5歳か〜。それじゃあ今、年長さんだ」
「うん!来年小学生だよ!」
俺の自己紹介を聞いて、咲音ちゃんも元気に自己紹介をしてくれた。
「それじゃあ、改めて私も。松村陽菜、高校2年です。中原さんは高校生、です?」
「あ、うん。俺も松村さんと同じ高校2年だからタメでいいよ」
「そうなんですか!?それじゃ、遠慮なく」
そう言われてすぐタメ語に変えられる当たり陽キャを感じる。
それからはどうでもいい話をして時間が過ぎていった。
「夕飯の支度しないといけないので、そろそろ帰らないと。今日は本当にありがとね」
「いえいえ」
「咲音、帰るよ。お兄ちゃんにバイバイして」
「ヒカルンのお兄ちゃん、バイバイ。またねー」
そうして俺たちはそれぞれ帰途についた。
またね、と言いながら手を振ったが、多分俺がクラスメイトだということは気付いてはないから会うことは無いだろうと心の中で思う俺だった。
――――――――――
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