思考的実験「メッセージ」
猫が目に涙を溜め込み「にゃあ」と鳴いた。
そんな出来事を思い出して、気になってどういった理由で涙を流し泣くのか、を調べてみた。
深くは調べていないので、深くは分からないが、感情によって涙を流すことは基本的に無い、らしい。
涙を流している原因は、目の病に罹っている可能性がある、ということらしい。
なるほど、人間の観察力、状況の把握力、そして感情というのはとても豊なのだ、と思った。
言語によるコミュニケーションができない異人種や、他生物、自然に植物や無機質な物に情緒を感じるというのは、人間が持ち備えた優しさというものなのだろう。
事実は目の病による故、、、であったとしても、身を隠しながら顔を乗り出し、何かを訴えようとした猫のメッセージを受け取り理解しようとした。
ピントを合わせてごらん。
見えてこないか。
耳を澄ましてごらん。
聞こえてこないか。
ラジオの周波数を合わせるように。
砂嵐と雑音の中から、僅かに見えてくるだろう、僅かに聞こえてくるだろう。
目まぐるしく過ぎ去っていく時の中にもまれ、
喧騒と雑音の渦の中を、方向や方角など分からなくなりながらも、進んでいるのか、進んでいないのか、それでもそれでも歩めば、
渦はだんだん狭くなっていき、先があんなにも近いのに、手をかざしても掴むどころか、触れることさえすることができない。
それでも、泥泥になりながらも、激流の中でもがくのだ。
あちらでもなく。
こちらでもなく。
足が縺れ、躓いてしまって、転んだ時、あれほど騒がしかった喧騒と雑音は、ピタリと静寂に包まれ、砂と石のついた顔を恐る恐る上げてみたところ、意味の分からない景色を見せられた。
あの激流の渦はなんだったのか。
文脈とは一体…
これらが示すものとは一体…
つい先ほどの激流とは打って変わって、穏やかで静かで、心になにやらぽっかりと穴が開いてしまったようである。
このまま考えていても仕方がないから、状態を起こし壁にもたれかかり空を眺めた。
なんとも穏やかでゆっくりとどこかへ向かう雲に、何故か安心感を覚えた。
やあやあ、雲さんや、何処へ向かっているのかい??
やあやあ、君、お日様を隠してしまってごめんなさいな、時期にどくからね。
そんなに焦らずとも、ゆっくり行ってくださいな、雲さん、僕のように躓いたら危ないからね。
心配してくれてありがとう、お言葉に甘えてゆっくり進ませてもらうよ、君も気を付けてね。
そう言って雲は少しずつ前の方へ進んでいった。
そうして過ごしていると、ぐーとお腹が鳴った。
雲の尾っぽが見える頃、隠れていたお日様の光が漏れ出してきた。
お日様の光が手を照らした時、自分の手であることが確認できた。
半信半疑な心を確信に変えたのは、自分の意志で手を動かしてみると、手が動いた。
風が吹き、葉を揺する音が聞こえてくる。
葉に滴る雫が見えた。
見える景色が。
見つけてもらうことが難しい存在が。
何に向かって歩んでいるのか、そんなことは分かりはしないが、どうやら、私の中に存在しているようで、存在しているものによって突き動かされているようだ。
露わになったお日様に手をかざした。
確かなる「生」を感じた。
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