第4話 街に行くヤマト

 ヤマトは走った、テツロウが待つ家に。


 ヤマトは走った、全てが揃う我が家に。


 ヤマトは走った……


「テツロウ! また寝坊か! お前が居なきゃ生産品を運べないだろうが! 早く起きろ! 俺が一回起こした後に二度寝しやがって、全く……」


 今日は一番近い隣街に村の生産品を売りに行く日だ。テツロウは荷物持ち。俺は護衛としてついて行くのだ。

 これはテツロウが十歳の頃から始まったのだが、毎回の事ながらテツロウは寝坊している。


 俺も既に慣れてはいるが、そろそろテツロウも責任という事を自覚して欲しいとは考えていた。


「うえっ!? また寝てた、僕?」


 テツロウも俺の声に慌てて飛び起きた。


「おかしいな〜、僕はちゃんと起きて馬車に乗った筈なのに……」


「それ絶対に夢だろ、テツロウ……」


 まだまだテツロウに責任を自覚させるのは難しいみたいだ。


あんちゃん、もっと早く起こしてくれたら良いのに」


「コラ、甘えんな。お前も十三になったんだからな。後一年で成人なんだからちゃんと自分で起きれる様になれ」


「は〜い…… 分かったよ、兄ちゃん」


 それから二人で家を出て村の広場に向かう。


「おう! やっと起きたかテツロウ。今回はコレだけだ。よろしく頼むな」


 村の生産品を並べた場所にテツロウを案内したのは生産組合長のゴルダさんだ。


「ゴルダさん、前回よりも多いよ。報酬は?」


 報酬面ではちゃっかりしてるテツロウである。


「おう、前回は行き帰りで二万Gゴルドだったな。今回は帰りの荷物も少し多いからな…… 二万五千Gでどうだ?」


「三万!」


「二万七千!」


「二万九千五百!」


「二万七千八百!」


「二万九千!」


「しゃあねぇ、二万八千だ! これ以上は無理だぞ、テツロウ!」


「うん、契約成立!」


 俺に直ぐにしわいと言うテツロウだが、本当にしわいのは俺よりテツロウの気がする。 


 さて、村の生産品とは何ぞや? と思われてるそこのアナタ、そうそこのアナタだ。今から俺が解説してやろう。下記参照だ!


一、味噌もどき

二、醤油もどき

三、米

四、陶磁器(主に食器)

五、米酒

六、ワイン

七、麦酒

八、蒸留酒(ウイスキーもどき)

九、各種旬の野菜

十、木工細工(机、椅子、箪笥、ベッドなど)


 この十種が村の主な生産品だ。俺は産まれて直ぐに転生した事を知っていた。だから一歳になってから知識チートをこの村でブチかましたのだ。

 味噌【もどき】なのは原材料が大豆じゃないからだ。この世界の大豆に良く似た豆を利用しているのだ。なので醤油も同じく【もどき】となる。


 蒸留酒のウイスキー【もどき】はピートがないからだ。仕方がないので稲わらを利用して香り付けをしている。だから【もどき】である。それでも村では強い酒が好きなおっさんたちには大好評である。


 各種旬の野菜は村のご老人たちが趣味で育てている野菜たちなのだが、これが美味い。前世で食べた野菜よりも美味いのだ。

 どんな魔法を使っているんだと俺はご老人たちを見張ったのだが…… とても丁寧に雑草を取り除き、肥料を最低限与えているだけである。

 村一番の野菜の作り手であるオヨネ婆さん曰く、


「余計な事はせんでも野菜自身が必要な養分を貯めようとするように育てたらええんじゃ」


 らしい。納得である。なのでうちの村の野菜は街の市場ではなく農業ギルドに卸している。中々の高値で買ってくれるからな。


 酒については街の食品ギルドとドワーフたちに卸している。街にあるドワーフ職人ギルドにだ。あいつら酒なら何でも来いだけど、蒸留酒に喰い付いて来やがった。まあ、ビンやスキットルを生産して貰ってるからな。食品ギルドへの卸値より少し安くしてやってる。

 ちなみに蒸留酒は二種類あって、シングルモルトとブレンデッドモルトでシングルモルトの銘は【バッカス】、ブレンデッドモルトの銘は【ソーマ】だ。


 英雄や勇者が召喚されたっていうのに余裕あるなって思ったそこのアナタ、そうそこのアナタだ。


 何で俺がこんなに余裕があるのかを説明しておこうか。


 俺は産まれた直後から自分を鍛え上げてきた。現在十八歳だが俺のレベルは万を超えて十万の桁をそろそろ卒業する。持ってる技能は前世で修行していた家業でもある神越逸刀流みこしいっとうりゅうだけだが、八百万の神曰く俺に勝てる者は神でも居ないとの事。

 つまり、来たばかりの英雄や勇者がどれだけ頑張ってレベルを上げてやって来ても瞬殺出来るのだ。例え、英雄が日本三大いっとう流の一つを技能として持っていてもだ。


 あれ? ご存知ない? ならばお教えしよう。


 表に出てるいっとう流で有名なのは小野派一刀流や北辰一刀流なんかがある。

 だが、剣術家の高名な者たちしか知らない真のいっとう流は三つ。


一つ 【神越逸刀流みこしいっとうりゅう

一つ 【神子柴一刀流みこしばいっとうりゅう

一つ 【神薙鑄刀流かんなぎいっとうりゅう


 この三つだ。それぞれ門外不出、一子相伝だったが、神子柴家は剣術で商売を始めたから俺の家の流派や神薙家の流派も一般に知られてしまった。

 まあ、門人に成りたいと言ってきた人たちには悪いが丁寧にお断りをしたが。神薙家でもうちと同様の対処をしていたらしい。

 で、その時の神子柴の当主の息子が英雄くんなのだが、ハッキリ言おう。


 【神子柴一刀流恐るるに足らず】


 勿論だが全てを門人たちに教えていた訳では無いのだろうが、それでも一般に公開してしまえば研究出来る。なので、当時の俺は何食わぬ顔で神子柴一刀流に入門して一年でやめた。

 

 まあ、創世神に聞いた所によれば英雄くんは神薙鑄刀流の後継者を圧倒したそうだが。

 まあでも問題ない。俺はこの世界で新たな神越逸刀流を生み出したし、妖刀【逸物いちもつ】も手に入れた。


 もはや敵なしである。

 

 だからこんなに余裕をかましているのだ。お分かりいただけただろうか?


 ちなみにだが、テツロウにも初伝、中伝までは教えて鍛えている。テツロウはレベルも万の桁だ。そこら辺の有象無象に負けたりはしない。

 テツロウでも竜ぐらいなら難なく斬ってみせるからな。


 村人の中でも覚えたい人には初伝までは教えている。なので本当ならば俺の護衛なんかは要らないのだが、長年の伝統というヤツだ。俺が八歳から護衛についてるからなぁ……


 まあテツロウが来てくれてからは荷物も少なくなってしまい、今では実は村の住人の小旅行となってるぐらいだ。

 みんな金はかなり持ってるからね。

 

 うちの村の平均貯金額は六千八百万Gゴルドだって知ったら領主ももっと税金寄越せって言ってくるだろうなぁ……

 街の人たちが二重帳簿で誤魔化してくれてるのはここだけの話だ。

 領主にバレて税金が高くなったら魔族領に村ごと行くって街の人たちには言ってあるからな。

 今や街の人たちはうちの村の生産品が無い生活は考えられないらしいから、必死で守ってくれてるよ。


 さあ、今回も張り切って稼ごう。


 味噌もどき、醤油もどき、酒類が売れたら俺にマージンが入るからね。


 





 

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英勇 しょうわな人 @Chou03

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