第2話 一年後
は〜るばる来たぜ異世界〜
前世のとある大御所演歌歌手の方が歌っておられたメロディーに乗せて、村で使う予定の木を切っていたら弟のテツロウが話しかけてきた。
「
ちなみにだが、俺とテツロウに血の繋がりは無い。俺が産まれた翌年に俺の両親は村を救う為に魔獣と戦って死んでしまい、テツロウは違う街からこの村へと逃げてきた孤児だ。
俺の両親がそうやって相打ちだったが村を守ったので、村長を含めた村人たちから大切に育てられた俺。俺が十二歳の時に当時七歳だったテツロウがこの村に逃げてきて、俺の弟となったのだ。
この時には既に村人は全員が創世教徒だったので、創世神にも手を貸して貰い村人にも納得してもらった。
なにせテツロウは鑑定とストレージ持ちだからな。俺には無いものを持ってる良く出来た弟だ。
「ん〜、この言葉はな。ヒノモトという国の言葉だ。覚えたいなら教えてやるぞ。但し、覚悟しておけよ、フフフ」
「いや、いいよ。
チッ、逃げられたか。覚えてくれたら暗号代わりに使えるのだが。まあ良いか。テツロウにはこの世界の文字の読み書きや四則演算は教えてある。
村の他の子どもたちにもだ。大人でも覚えたい人には教えて覚えて貰った。
何故か分からないが授業中の俺は
「それより兄ちゃん。この木は何処に運ぶの?」
「ああ、言って無かったな。村に神殿と道場を建てる事になったから、大工のゲンさんとこの倉庫に持っていくんだ。そこで魔法で乾燥させて板材や角柱に加工する。それから俺がかいた設計図を元に神殿と道場の建設だ。テツロウ、その時はまた運ぶのを頼むな。運び賃はゲンさんが日当で六千
「やった! ホントにか兄ちゃん! それじゃ、今日の分は?」
「ざんね〜ん、今日のは俺の手伝いだから日当三千
「え〜! 兄ちゃん相変わらず
バカ言え、俺が汗水流して切った木をストレージに放り込んでゲンさんの倉庫まで運んで出すだけの仕事で三千も支払うのは身内だからだぞ!!
まあ、実際には汗水は流して無いが……
『こ、この天下の名刀【
いや〜、ホントに良く切れるわ、妖刀【逸物】。直径にして一メートルを超える木もスパスパ切れやがる。あの時、創世神から受け取っておいて良かったよ。役に立つじゃないか。
『いえ、ですから
妖刀の声は俺にしか聞こえないが、俺は徹底的に無視している。何せ前世の我が家に伝わる妖刀だ。どんな妖力を秘めてるか分かったものじゃないからな。
『だから〜、誤解なんです〜、私は天下の名刀であって妖刀なんかじゃありませ〜ん…… 信じて下さい、主様〜』
俺は何処かの創世神のように簡単には騙されないのだ。前世でも三十二歳まで生きたからな。人生経験はそれなりにある。なので甘言に惑わされる事などない。
『ふぇ〜ん、やっぱりこの世界の創世神になんて付いてくるんじゃ無かった〜…… これなら地球で新たな主様を待ってた方が良かったよ〜……』
寝言を言ってるようだが、ちゃんとこの世界テラスで俺が確りと使い潰してやるから安心しろ。
こうして俺が神殿と道場を作る為の木を切ってる時に、聖王国セイントでは召喚の儀式が行われたようだ。
…… …… …… …… ……
「オオッ!? せ、成功しましたぞ! 教皇猊下!!」
「英雄様と勇者様のお二人が揃っておりますっ!!」
「あっ? 何だ〜ここは? もう少しでカオリをモノに出来たのに邪魔しやがって! お前らかっ! 俺様の邪魔をしたのは!!」
「なっ、何をなさいますか! 英雄様、お止め下さい! ご無体なっ!! ギャーッ!!」
「(危なかった…… もう少しでタケルに奪われるところだったわ…… ハッ、あのバカを止めないと!?) タケル、先ずは確認しましょうよ〜。何も分からないのも困るじゃん」
「あ〜ん、まあそれもそうだな。コイツも弱っちいし。コレぐらいにしておくか。で、ここは何処で、なんで俺様とカオリはこんな所に居るんだ? 説明しろや!! オラッ!!」
「グハッ! ぐ、と、突然の事で困惑されるのはご尤もです、英雄様、勇者様。お二人は異なる世界より、神託の女神様のお力を授けられて我々の世界を救う為に召喚されました。どうか、憎き魔族どもを倒して我らをお救いください!!」
「あ〜? 何だ、それは?」
「タケル〜、異世界転移だよ〜」
「あっ? そりゃ何だ、カオリ?」
「私よりあそこに居る女神様に聞いた方が早いんじゃない?」
「女神だと? んなもん何処に? って、ウォッ!! テメェ、女! いつの間に俺様の目の前に!」
『フフフ、此度の英雄に勇者は随分と乱暴者のようね。私がこの者達の信仰する、神託の女神よ。
「ケッ、何を偉そうに言ってやがる! 俺様に命令するなっ! 女!」
タケルは神託の女神を殴ろうとするが、その拳が女神に届く事は無かった。
「あっ? どうなってやがる?」
『フフフ、コチラにきたばかりの貧弱なステータスで女神である私を傷つけるなど不可能よ、タケル。さあ、私の言う事を聞きなさい!』
女神がその手をタケルに向けるとタケルはその場に蹲る。
「グッ、ガァァァーッ! クソがっ! 何だ、コレは? 何で俺様は動けねぇんだ!?」
『フフフ、今の貴方ごときでは私の力に逆らうなど不可能よ、さあ、ステータスオープンと唱えるのよ!』
「グッ、クソッ、ス、ステータスオープン!」
ブオンという音と共にタケルの目の前に半透明のボードが現れた。そこには、タケルの現在の能力値が表示され、更には壁にも映し出された。
「オオッ、間違いなくタケル殿は英雄! 女神様、これで我が国は救われますな!」
『ええ、私の神託にはそう出てます。教皇、これよりこの二人を鍛え上げなさい! そうね…… レベルが20になれば実戦経験を積ませなさい。それと、この者たちの望む物は何でも与えるのですよ。例え貴方の妻であろうが、娘であろうともね』
「ハッ! 女神様の仰せの通りに!」
『タケル、私に敵わない事は分かったでしょう。ここは私の言う事を聞いておきなさい。そうね…… 私に勝つにはせめてレベルが500は無いと無理ね。(本当は1000であっても無理だけどね、フフフ)それまで頑張ってレベルを上げたなら挑戦させて上げても良いわ。精々頑張りなさい。それと、勇者と寝る事は許さないわ。(英勇が産まれたらさすがに困るからね)勇者もよ! 貴女も頑張ってレベルを上げる事ね、フフフ』
そう言うと神託の女神の姿が消えタケルも自由になったようだ。
「クソがっ、あの女、変な術を使いやがって!! それよりも、お前ら、俺は女が必要だっ! 直ぐに飛び切りの女を用意しろっ!! そうだ! そこで畏まってるその女で良い!!」
タケルは教皇の横に立つ女性を指さした。それに教皇は一度は躊躇するが、
「ハイッ、英雄タケル殿の仰る通りに!」
と返事をする。だが、その女性は、
「お父様! 私には婚約者が!!」
と拒否している。その姿にタケルがキレた。
「テメェ、女! 女神の言ってる事を聞いて無かったのかっ!! 素直に俺様の女になりやがれっ!!」
しかし、そこに一人の騎士が割って入る。
「お待ち下さい、英雄タケル殿。姫は私の婚約者です! 他の者でご容赦下さい!!」
「ゴチャゴチャ、煩えんだよ!!」
それまで己のステータスを見ていたカオリは自分の能力を把握したのか、何も無い所からメイスを呼び出して、割って入った騎士と姫の顔を叩き潰した。
「タケルは私の婚約者。人の婚約者に色目を使うとは許せないわ!」
その行動にタケルが叫び声をあげる。
「ああ〜、な、何してんだよ! カオリ! お前を抱けねえから、代わりにって思ったのに!!」
「タケル〜、私は浮気は許さない! 商売女なら許すわ!」
「クッ、クソがっ! まさか身内に敵がいるとは思わなかったぜ!! おい! 聞いただろ! 直ぐに俺様の部屋に案内しやがれ! そして商売女を連れて来い! 街一番の高級娼婦をだぞ!!」
「ハッ、ハイッ! ただ今、直ぐに!!」
こうしてタケルが出て行った後にカオリは即座に顔を潰した二人に回復魔法をかけた。そして、教皇には聞こえないように二人に付き添う侍女に告げる。
「またタケルに見つかると面倒だからこの二人は王宮から出して魔族の侵攻の無い領地へと避難させなさい。こんな乱暴な手段を取って悪かったと謝っておいてね」
「はい、勇者カオリ様。必ずお二人にお伝えします」
こうして、タケルの毒牙から免れた二人とその後の貴族令嬢たち。これからタケルは娼婦のみを相手にする事になったのだった。
数日後にタケルが姫を所望し、婚約者の勇者によって姫が顔を潰されたという話は尾ヒレがついて広がり、英雄も勇者も人格的にとても問題のある者が召喚されたと聖王国セイントに瞬く間に広がっていった……
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