英勇

しょうわな人

第1話 召喚予定の二人

「オラッ! どうしたどうした? あん? 俺様を殴るんじゃ無かったのか? あ?」


「く、くそっ!! 神子柴みこしばーっ、お前だけは絶対に許さんっ!!」


「ギャーハッハッハー、許さんって這いつくばりながら言うセリフかよ? お前も妹と同じように心を壊してやろうか? あ?」


「タケルー、退屈…… もう帰ろ?」


「おう、分かった、カオリ。命拾いしたなぁ、カンナギ。次はもうちょっと鍛えてから掛かってこいや。ギャーハッハッハー」


「クソーッ! 何故だっ! 何故あんな奴が野放しになってるんだっ!!」


 …… …… …… …… …… ……


『とまあ、こんな人が英雄として私の世界に召喚されるのです…… ちなみに横にいる女性は婚約者だそうですが、この人も良く見えなかったのですが、周囲の評価では性格は婚約者と同じぐらい悪いそうなんです…… ヤマトさん、もしも来たら何とかしてもらえます?』


「いやいや、何で俺? おまえも神だろうが。自分で何とかしろよ!!」


 俺の返答に目の前の神が腰をクネクネさせながら言う。


『いや〜ん、私がその力のほとんどを失ってるのを知ってる癖に〜、ヤマトちゃんのイ·ケ·ズ·!』


「ヤメロ、気持ちワリィ…… 俺はオネエさんが生きる事を否定はしないが、自分に関わるのは御免被る!」


『ヤダわ、ヤマトちゃん、私は神だから性別なんて無いのよ〜! ラララ〜』  


 この野郎、斬ってやろうかとは思うが、斬れない事は分かっている。腐っても神だ。


「とにかく、俺の住む村に影響が出ないなら無視するよ。俺は俺の手が届く範囲しかまもれないからな」


『もう〜…… はあ〜…… まあそれで良いわ。無辜の民が無残に殺されてもヤマトちゃんは無視すると…… 神の手帳に記しておくわよ!』


「あのなあ、俺が転生させてくれって頼んだ訳じゃないよな? どうしても、多少なりとも、力を取り戻したいから、俺に転生してくれって土下座で頼んだのはお前だろうが! それで産まれてから俺が村に布教活動して、村人の百十八人は創世教徒となったから多少、力を取り戻しただろ? お前の願いは叶えた筈だよ。これ以上メンドー事を俺に持ってくるな」


『でもでも〜、ヤマトちゅあ〜ん、私はこの創世界を創った者として責任があるのよ〜。このままあの邪神に好き勝手させてたら始源の神によって降格させられるの…… それは何としても防ぎたいのよ〜。だからお願い、ヤマトちゅあ〜ん!!』


 コイツ…… 自分のミスで乗っ取られやがったのに…… そもそもあんな邪神に乗っ取られること自体が無能の証明なのでは?


『ヤダ! そんなに褒めないで〜』


「褒めとらんわっ!! もう降格しろ、お前」


『イーッ、ヤーッ! 降格はイヤよーっ!! だって私の世界が消滅してしまうんだもの!!』


「何ーッ!? それを早く言え、馬鹿!!」


『あーっ! 馬鹿って言ったーっ! 馬鹿って言う人が本当は馬鹿なんだからねっ!!』


「子どもか、お前は…… それよりも、あの女の子も性格悪いって本当か? 俺には絶妙のタイミングであの婚約者がこれ以上、ヤられてた奴を殴らないように声かけしたように見えたんだが?」


 俺の疑問に創世神は


『う〜ん…… どうなんだろ? 私も力が弱いままだからハッキリえないのよね〜…… まあ、周囲の評価として聞こえてきたのは、あの女の子も婚約者と同じように弱い立場の人を虐めてるって話だったけどね』


 そう答えた。う〜ん…… ま、来たら分かるか。


「取り敢えず何処の国が奴らを召喚するんだ?」


『やーねー、決まってるじゃない。神託教の総本山、聖王国【セイント】よ。あの邪神ったらまた魔族にチョッカイを出すつもりなのよ! 何とか止めてね、ヤマトちゅあ〜ん』


「あ〜…… 最後の言葉でヤル気が削がれた…… それじゃあな、創世神……」


『待って待って待ってーっ!! 私が悪うございました、どうかお怒りをお鎮め下さい……』


 人に土下座する神とか……


「はあ〜…… それでいつ頃召喚されるんだ?」


『あの神子柴って子が今で十七歳だから、凡そ一年後ね。十八歳になったら召喚されるわ』


「分かったよ。それで俺はどうしたらいいんだ?」


『魔族にチョッカイをかけるならヤマトちゃんの村は必ず通るんだからその時にあの二人を懲らしめてくれれば良いわ。実は聖王国の民は、もはや邪神に汚されすぎてて救いようが無いのよ…… もうちょっと早く私が動けるようになってたら助けられたんだけどね……』


 反省はしてるようだ。まあ、実際に別の神八百万の神に聞いた話だとかなり狡猾な手口だったらしいからな。創世神として昇格したばかりのこの神が騙されたのも仕方が無いとも言ってたな。


「まあ分かった。途中の国や街なんかは大丈夫なのか?」


『う〜ん…… それを言ったらヤマトちゃんの負担が大きくなっちゃうでしょ? だからそっちは多少は取り戻した神力を使って何とかしようかなって』


「そうか…… それじゃ頑張れよ!」


『そっ、そこは、「お前が神力を使うとテラスが消滅するだろ! 分かった俺に任せろっ!!」って言う所じゃない!!』


 俺は鼻をほじりながら答えてやったよ。


「いや〜、俺は神ならぬ人の身だからな〜。そんな知らない人の国や街なんかを護る力は無いよ、ホジホジ」


『キィーッ! もう、分かったわよ!! ホラ、貴方の前世の愛刀よ!! これで良いんでしょっ!』


「いや、そんなモン要らんけど?」


『ガーンッ!?』

『ガガーンッ!? そんな主様あるじさま!!』


 うん、一つ目は神で二つ目は誰の言葉だ?


『主様、お忘れにございますか!? 主様と共に歩んだ天下の名刀【逸物いちもつ】を!!』


 あ〜、コイツ異世界に顕現けんげんして人格を得やがったな。確かに神が手に持ってるのは我が家に伝わっていた【妖刀】逸物いちもつだ。厳重に封印されてた筈だが?


『えっ!? 妖刀? ウソでしょ!? だってこの刀からちゃんと話を聞いたのよ! ヤマトちゃんの愛刀だったって!!』


 うん、うちに封印されてた妖刀にコロッと騙されるんだから邪神にしてみりゃ騙すのも簡単だったろうな……



 …… …… …… …… …… 


 そんな漫才のようなやり取りが創世界テラスのとある村で行われていた頃、地球では……


かおり、良くやった。何とか神薙かんなぎくんを再起不能となる前に救ってくれたな」


「お父様、私もそろそろ我慢の限界が近いのですが…… いつまであの残虐な男に合わせないといけないの?」


「済まない、香…… もう少し、せめて後一年は待ってくれないか…… それまでに何とか神越みこし一族を探し出してみせるから……」


「お父様! 本当に私たち御子柴流武術では神子柴一刀流に勝てないの?」


「…… 勝てぬな。まして、あんな男だがたけるは当代随一と呼ばれる腕前。努力嫌いだが裏から手を回し犯罪者を使って人斬りの腕は磨いている…… 香、もうしばらく辛抱してくれ!」


「…… 分かりましたわ。それよりも神薙さんの妹さんはどうなのですか?」


「そちらも大丈夫だ、確かに心まで壊されていたのだが、とても優秀な医師の方々によって心を取り戻したそうだ」


「そう、良かったわ…… 私が知らない間にヤられてたなんて…… 知っていれば今回のように止められたのだけど……」


「香、芝居を続けるのは辛いだろうが、どうかこのまま頼む……」


「はい、お父様……」


 とある親子がこのようなやり取りをしていたのだった…… 

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