遺書

「ユキハラさんの遺書を見せてください」

 ハラノは安楽椅子探偵だが、珍しく行動していた。

「早竹。いくらなんでもそれはやりすぎだろ。原野も」

 ハグチ事務所の事務所長ハグチがいった。早竹も、原野も、はいとちぢこまる。

「さて。遺書を見せてくれますか」

 すっきりした笑顔でハグチがいった。

 原野は心の中で小さく舌打ちをうったのだった。「なんだい。報酬を山分けされる額はなんでも一緒なのに」


「もういやです。」

 と妻のルナが音読して顔を歪めた。

「私たちで預かっていいでしょうか」

「はい」


     *


 帰る車内。

「これで証拠は隠滅したな」とハグチがいった。「俺の字綺麗だったろ」

「はい。ハグチさんとは思えないほど」早竹がひとりゆかいそうに笑っている。

 原野は思った。(いつまで俺たちは殺し屋稼業をやってるんだろ?)そして、遠き未来に祈りを込めて、車越しの空を仰いだ。

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