第13話 車購入の基本はリセールバリュー③

「ああ、そうなんですね。ええ、実際の査定額は来店してからというのもわかっています。」


隆人兄ちゃんの話を聞き、試しに自動車買取専門店に査定額を聞いてみることにした。


お店は隆人兄ちゃんが車の買取でいつも利用する所で、しつこい営業をしない接客の良いお店とのこと。


隆人兄ちゃんいわく、「しつこい営業をしないのは、それだけ買取額に自信があるからだよ」だそうだ。


確かに、他の店よりも高い買取額を提示してくれて、なおかつ接客もよく、信頼できるなら繁盛するだろう。


「え~と、グレードは確かSでボディカラーは黒、走行距離は12000kmくらいです。」


質問された内容に順番に答えていく。


「え!?210万から230万くらい?」


もう少し安いと思っていたから、正直驚いて声が高くなってしまった。


「あ、はい。実際に売る時はまた連絡します。ええ、正確な金額は実車を見てから?それはわかってます。はい、そうですね。」


しばらくやりとりが続き、ようやく電話が終わった。


「210万から230万くらいか。光太郎はあの車をいくらで買ったかおぼえてる?」


「え~と、諸々で350万くらい。」


「車両本体の価格はどのくらいだ?」


「ローンの申し込み控えを持ってきたから見てみるよ。車両本体はこれかな。値引きしてもらって、ちょうど300万円だね。」


「210万で買取してくれたとして、残価率は70%だな。諸費用はこの車なら30万円弱って感じで、オプション品で20万くらいか。」


「それくらいだったと思う。」


「ローンの総額は?」


「下取りと頭金を入れて、残りの200万円をローンにした。」


俺はローンの申し込み控えを隆人兄ちゃんに手渡した。


「金利は3.9%か。で、60回払いでボーナスなしの毎月39300円と。先月で29回支払い済みとすると、ざっくりとだが残債は114万くらいか。分割手数料は20万強だから、一括返済するともっと減るな。」


隆人兄ちゃんが電卓をたたきながら、呪文のようにつぶやいた。


え?


残債?


分割手数料?


一括返済したら残金減るの?


よく見たら普通の電卓じゃなかった。


「その電卓、変わってるね?」


「ああ、金利計算ができる電卓だよ。住宅ローンとかの計算に使える。不動産屋の必需品だな。ま、今回はこのローン申し込み控えの明細に、全部記載されているから出番はないけどな。」


へー、そういう電卓もあるんだ。


「実際の残債がいくらになるかはクレジット会社に問い合わせなきゃわからないが、仮に買取額が210万だとしたら、100万くらいが手もとに残るな。」


100万かぁ。


軽自動車でも最近は高いから新車は無理そうだね。でも、維持費も下がるからメリットも大きい気はする。


「ところで、残価設定型ローンって良いの?」


「興味あるのか?」


「知り合いがみんなそれで買いかえたそうだから、お得なのか気になって。」


「例えば、車両本体価格の半額を残価として据え置いて、残りをローンで組む。そうすると、400万する車をとりあえずは200万で乗れるようになるってことだ。」


「でも、残りの半額は後で支払うんでしょ?」


「支払ってもいいし、他の車でまた残価設定型ローンを組めば、その残価はなくなる。」


「わかりにくいなぁ。」


「最近の携帯電話の契約もそうだろう。端末代金の半額を分割にして、途中解約したら残金の支払いが発生する。携帯会社を乗り換えても同じ。その代わり、一定期間が経過すれば下取りに出して残額を消し、新しい携帯で分割契約を結ぶことができる。その車版だよ。」


「別のところで車買うなんてなったら、めちゃくちゃお金払わないといけなくない?」


「だから原則として、同じ販売店もしくはメーカーで車を買い続けないといけない。T社なんて、どこの販売会社に行ってもすべての車種が買えるようになったのはそのためだと思う。」


「え、どういうこと?」


「もともと正規ディーラーというのは、メーカーの直営なんてのは少ない。車が普及する前の時代に、メーカーと各地方の有力者や有力会社なんかが提携したのが自動車ディーラーの始まりじゃないかな。で、同じメーカーの販売会社同士が同地区で競合しないように、それぞれ別の車種を扱うチャネルを持ったんだ。ただ、今の時世なら個人リースなんかの販売手法も浸透してきてるし、そういったところは売りやすい車をメインに売る。そうなるとジリ貧なのが各地方のディーラーなんだろう。だから、お客様を逃がさないような売り方、メーカーも販売会社も永続的に売上を確保できる手法として、残価設定型ローンが生まれたんじゃないかと俺は思ってる。実際に500万円もするミニバンを、若い世代がよく乗ってるだろう?あれは大半が残価設定型ローンの効果だと聞くよ。そして、本来は同じメーカーの車同士で競合するはずが、全チャネルですべての車種を取り扱うことで、競合する他メーカーのユーザーから新規顧客を獲得しやすくなった。」


「俺も今の車を買う時にその残価設定型ローンを提案されたけど、何かリースみたいな気がして嫌だったからローンにしたんだ。」


「どちらがいいとはいえない。人によってどちらが得か判断するしかないんだ。まあ、近い将来に家庭環境が大きく変わりそうなら、残価設定型ローンは注意が必要だけどな。」




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