第8話 甘くないぞ、出産育児休暇⑧

「具体的な育児休業について説明するぞ。」


随分と脱線したような気もするけど、何て有意義な時間なんだろう。


本を読んだりインターネットを調べても、絶対にこんな風に理解できない自信がある。


「うん、お願いします。」


「育児休業は母親は産後休業の翌日から、父親は出産予定日から取得できる。予定通り出産を迎えた場合は、夫が出産に立ち会えるってことだね。因みに、本来は子どもが1歳になるまでが期限だけど、保育所に入れない場合などには事前申請することで最大2歳まで取ることができるんだ。他にも子どもが1歳2ヶ月になるまで延長される『パパ・ママ育休プラス』という制度もあったりする。あと、今回はふたりとも正社員だから、理論上でいえば期間は最大まで取ることができるね。」


「正社員でなければ期間に制限があるんですか?」


「まあ、短期や契約社員で雇用期間が1年未満だと、会社によって取れないこともあるね。」


なるほど。


「それにしても、夫婦揃って取れるのはすごいね。」


「うん、確かにそうだね。ただ、現実問題として収入減とか職場の心証なんてものもあるから、夫婦揃って満期取得というのは難しいところがあるけどね。」


「育児休暇中は無給なんだよね?産休時の出産手当金みたいなのはないの?」


「あるよ。」


隆人兄ちゃんが、昔流行ったドラマに出てきたバーテンダーの口癖を真似た。


どう反応したらいいかわからないからやめて欲しい。


いやいや、反応薄いからって目線そらさないでもらえる?


「どうかしました?」


そんな隆人兄ちゃんに遥香がとどめをさす。


「ちょっとお茶を入れ直してくるね。」


隆人兄ちゃんはそう言って一度席を外した。


俺も母さんが再放送で見ていたから知っているだけで、20年以上前のドラマなんて本来俺たちが知ってるわけないじゃん。いちおう、ふたりともまだ二十代なんだからね。


というか、へそ曲げたりしないよな?


「お待たせ。」


俺の不安をよそに、隆人兄ちゃんは新しいお茶を持って普通に戻ってきた。


あれ?


本当にただお茶を入れ替えに行ってただけみたいだな。


「さて、育児休業時の手当についてだったな。」


「うん。」


「まずは雇用保険から支給される育児休業給付金というのがある。ふたりとも給付要件は満たしていそうだからそこは割愛するぞ。これは育休開始から180日は休業開始前賃金の67%、それ以降が50%の給付金額になる。2025年4月からは、両親ともに14日以上の育児休業を取れば、28日間を上限に80%になる予定だ。」


「やっぱり給料より少なくなっちゃう。」


「いや、産休中と同じように、健康保険や厚生年金保険料の免除もあるから、80%の期間は手取り金額とほぼ同等だといえるよ。」


ああ、なるほど。


うちだとぎりぎり出産予定日に対象になっているな。


「それ以外にも医療費控除なんかもある。自己負担した医療費や通院費用なんかは確定申告の対象だな。」


「高額医療費とは手続きが異なるんですね?」


「高額医療費は健康保険組合が管轄で、限度額を超えた分が払い戻しされる制度だからね。妊娠出産時のは医療費控除だから所得控除申請になるんだ。」


「ということは、税金が安くなるってことだね?」


「医療費10万円を超えた分が対象だけどね。あと、出産一時金でもらった分は差し引いておく必要もある。」


あ、なんだ。


あまり大きな額ではないってことかな。


出産でかかる高額な医療費は出産一時金でまかなえるから、高額医療費制度とは別ってことか。


ややこしいな。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る