第6話 甘くないぞ、出産育児休暇⑥

「産後休業の日数は同じですか?」


「そうだね。産後休業は双子も同じ8週間と定められているよ。これは母親を守る措置で、労働基準法で義務付けがされている。例外措置として本人が請求して医師が認めた場合のみ、6週間後から復職することは可能だ。」


今の話を聞いて、俺は疑問に思った。


「あれ?本人が希望するなら6週間後から働けるってことは、もしかして産休中は給料が出ないってこと?」


遥香もハッとした顔をする。


「いいところをつくね。そうなんだ。公務員や一部の企業を除いて、産休中は給与が出ないことが多い。」


「ええ・・・普通に出ると思っていた。」


「私の勤める会社も出ないみたい。だけど、健康保険からは手当が出るって聞きました。」


「確かに、健康保険からは出産手当金が出るよ。ただし、給与よりは減額された金額になるんだ。過去一年の標準報酬月額の平均値を30で割って、それに3分の2を掛けた金額が1日あたりの支給額になる。」


「え~と、それって明らかに給料よりも低い数字だよね。」


「仮に標準報酬月額が22万円なら、一日あたりにもらえる出産手当金は5000円弱だな。」


一日5000円・・・1ヶ月間もらったとしても15万円くらいじゃないか。大幅に収入が減っちゃう。


「やっぱり、満額ではなかったんですね。」


「そのかわりじゃないけど、出産時に出産育児一時金として、1児につき50万円が健康保険から支払われる。双子なら100万円だな。まあ、出産費用やベビーカーその他諸々なんかの費用負担が大きいから、そんなには残らないだろうけどね。あと、出産費用の支払いに出産育児一時金を直接あてることは可能だけど、差額が残った場合は必ず差額請求申請をしないと戻ってこないからね。」


「そうなんだ。忘れずにしないとかなり損しそう。」


「ついでにいえば、産休や育休中の健康保険料や厚生年金保険料は免除してもらえるよ。これによって将来の年金が減ることもないから忘れずにね。」


「そっかあ。収入は減るけど、その辺りは優遇されるんだね。」


「うん。あと、地方自治体によっては出産祝い金も出る。この市なら出産応援給付金として妊婦1人あたり5万円、子育て応援給付金として新生児1人あたり5万円が出たはず。双子なら合わせて15万円だから、こちらも忘れずに手続きするように。」


「へ~、そんなのもあるんだ。」


「これは年度によっても違うし、現金ではなくクーポンの場合もあるから市役所で確認しておいた方がいい。」


「何だかんだいって、結構費用負担は減りそうだね。」


「そうでもないと思うぞ。単純に考えて、収入減少に健康保険や年金保険料の免除や祝い金などが充当されるだけだ。まあ、出産費用が出産育児一時金でまかなえるのは大きいけどな。」


「ということは、とんとんってことかな?」


「甘いな。大変なのはその後の方だぞ。」


「え!?」


「育児に入ると、オムツにミルクなんかのランニングコストもバカにならない。」


「で、でも、児童手当とかももらえるでしょ?」


「それについては後で詳しく触れるけど、将来のために置いておくべきだな。」


「そ、そうなんだ。」


「家庭を維持するために最も難しいのは、夫婦仲と将来を見据えた貯金だともいわれている。無計画なままでいると十数年後に泣きを見るし、カワイイ子どもの将来を閉ざすことになりかねないぞ。」


確かにそうだ。


具体的なイメージが湧かないけど、何不自由なく俺を育ててくれた親ってマジですごいんじゃないかって思えてくるよ。






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