第5話 甘くないぞ、出産育児休暇⑤

「隆人兄ちゃんがやっているコンサルティングって儲かるの?」


コンサルティング料って、どれくらいなのかわからない。それに商品を売らずにお金を稼ぐって、すごく大変な気がする。


「生々しいことを躊躇いもなく聞くんだな。」


隆人兄ちゃんは笑いながらそう言った。


「ああ、ごめん。」


「いや、かまわないさ。そうだなぁ。一般家庭を相手にしたコンサルティングなんて、相当な数をこなさなきゃ儲からないだろうな。むしろ、時給換算したら会社員の方が割がいいだろう。」


「そうなの?それでもする理由は?」


「まあ、いろいろあるんだよ。俺も現場に出ることが少なくなったから、半分は趣味みたいなものかな。あとは、この業界って絶えず知識や情報をアップデートしとかなきゃ、ギャップが生まれてしまうからね。そういったものを防ぐためでもある。」


「なるほど。大変そうだね。」


「仕事を本気でやれば、どんな職業も大変だろう?」


「確かに。」


俺には難しい分野だけど、隆人兄ちゃんにとっては心血注ぐ仕事だということが真剣な眼差しを見ていてわかった。


やっぱり、この人なら信用できると感じるのはこんな所だろうな。


「ああ、それとアドバイスだけどな。俺だけじゃなく、他のファイナンシャル・プランナーにも話を聞いてみるのもいいと思うぞ。」


「え、どうして?」


「病気の診察でもセカンドオピニオンってあるだろう?こういったこともひとりの提案を鵜呑みにせずに、複数の相手から話を聞いて慎重に検討することをおすすめするよ。」


「逆に混乱しそうな気がする。」


「知識がなかったらそうなるけど、それを補完するためにここに来たんだろう?」


「ああ、そういえばそうだね。」


「だったら、いろいろと話を聞いて、持ち帰ってから冷静に考えればいい。どのファイナンシャル・プランナーの話が、自分たちにとって最も有益なのかを夫婦で話し合うんだ。」


「そっか、話を聞いてる時もひとりは相手をして、もう1人はメモ書きするとかすればいいんだね。」


「保険の契約をするのなら、最初の対応時からスマホのボイスレコーダーで録音しておくのもいいかもしれないな。保険なんて無形商品の代表みたいなものだから、後で言った言わないのトラブルに発展することだってある。」


隆人兄ちゃんが自社ビルを購入できたことが納得できるやり取りだった。


この人は本当に真摯な対応をする。


営業トークではなく、事実を伝えてくれているのが理解できた。だからこそ、多くのクライアントから信頼を得ていくのだろう。


「保険のお店に行く時はそうするよ。」


「ああ。さて、そろそろ本題に入ろうか。」


んん?


本題って何だっけ?


「ふたりは出産育児休暇のことを詳しく調べているのかな?」


「そういえばそうだった。ええと、産休と育休に別れているんだよね?」


「そう。産休は正確には産前産後休業といって、労働基準法で定められているんだ。パートやアルバイトを含むすべての女性が取得できる。」


「産休って、出産予定日を含む6週間前から取得できるんですよね?」


遥香は自分が務める会社の先輩社員からいろいろと話を聞いているそうだ。


「そうだね。ああ、今回は双子だから、14週間前から取得可能だよ。」


「え?双子だと違うんですか?」


「双子以上は期間が異なるんだ。」


すごいなぁ。


ファイナンシャル・プランナーって、そんなことも知ってるんだ。




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