第4話 甘くないぞ、出産育児休暇④
「ファイナンシャル・プランナーを信じるなっていうと語弊があるかもしれないな。」
え~と、どういうことだろう。
家計の相談の前に混乱しちゃいそうなんだけど。
困惑ぎみにお互いを見る俺と遥香を見て、隆人兄ちゃんが話を進めてくれた。
「ファイナンシャル・プランナーは、何で稼いでいると思う?」
稼ぐ?
保険とか投資とかを扱っているにしても、ほとんどは会社員だよね。
隆人兄ちゃんはコンサルティングをしているから別?
んん・・・あ、そうか。
流行りのNISAのことや保険のことをネットで調べた時に、気になる共通点があったことを思い出した。
「いろいろと調べてる時に投資『商品』、保険『商品』って記載があったことに違和感を感じたのをおぼえてる。もしかして、ファイナンシャル・プランナーはそういった商品を売る人のこと?」
「大多数はそうだな。保険商品専門、投資商品専門─いや、職業としてそれしか知らない人が実は多い。保険会社なら保険だけ、投資関係なら投資だけ。弁護士なんかもそうだろ?商取引専門、離婚訴訟専門、個人再生や自己破産専門とか。まあ、実際にはそれに特化して細分化された資格ではないから、得意分野としてそれを売りにするんだけどな。」
そうか、学校の先生もひとくくりで教職だけど、教える科目は国語とか数学なんかに特化してるもんな。
「だから有資格者でも、それを仕事としていなければアテにならないというわけですね。」
遥香が俺の気持ちを代弁してくれた。
「ところで、隆人兄ちゃんは保険とか投資商品を扱ってないの?」
「クライアントの要望があれば紹介くらいはするけど、それで儲ける気はないな。うちは斡旋業者や仲介業者ではないし、そういった『商品』を扱い出すと公正な立場でコンサルティングができなくなるからな。」
「どういうこと?」
「商品を売るっていうのは、やはり『商売』なんだよ。商売の鉄則って何だと思う?」
「利益を出すことかな?」
「そう。だったら、保険や投資も同じと考えるべきだ。より儲かる商品を売る。」
「じゃあさ、いろんな保険を扱ってる来店型のショップってどうなの?いろんな商品から選べますっていう宣伝をやってるし、自分で選べるなら行ってみようかなって思えるけど。」
「あれは『商品が多すぎて選べない』から、『では、あなたに最適な商品を御提案します』になって、売りたい商品を契約に持っていく手法だな。たくさんの商品を自分で見て選べるから、押し売りはされないと思う人が多いけど、実際には保険なんて訳のわからない商品なんてなかなか比較できない。だから売り手が好き勝手出来ないように保険募集人資格が必須となっているし、内閣総理大臣に申請して登録されなければ実務はできないことになっている。まあ、実情はザルだけどな。」
「ザルって?」
「売り手として生き残れるのは、コンプライアンスやモラルなんかに目をつむれる人だけの世界だからな。本当にお客様のことを考えて営業やっている人なんて希少種だ。そもそも、そんな奴らは儲からないからやっていけなくなる。」
「怖い世界だなぁ。」
「でも、来店型保険ショップは多くの保険を扱ってますけど、偏った売り方をしても各保険会社から何も言われないのですか?全然売ってくれないなら、取り扱い商品から外されそうですけど。」
遥香が鋭い質問をする。
「そうならないように定期的に社内キャンペーンを行って、普段売らない商品を売らすようにしているみたいだね。一時的に販売した時の手当を上げたり、ボーナス査定のプラスにしたりして。」
「ええー、マジですか?」
「うん。あと、男女共に若くて容姿に優れた店員を雇用して、お客様をメロメロにさせて売る手法も未だに健在だね。今の世の中だと非難されそうなことを言うけど、そもそも俺には独身で子どもがいない若いスタッフから『これがあなたに最適ですっ!』と提案されても、商品を売りつけようとしてるとしか思えないけどな。子どものいる家庭の気持ちがわかるの?って聞いてみたいほどだ。」
「ああ、確かに。共感のない物売りって、ただの営業トークですよね。」
憮然とした表情で答える遥香。
何かそういった経験でもあるのだろうかと思ってしまった。
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