戦士オリビアの憂鬱 ~勇者不在のパーティーがブラックすぎた件~

夜月 透

第1話 旅立ちの日は唐突に。


ベルラーク王国という国の南側、とある森にある小さな家で。



「え、師匠…。いま何て言いましたか?」


「だーかーら。旅に出ろって言ってんの!」



青々とした木々の隙間から眩しい光が降り注ぐそんな早朝から、二人の女の言い争う声が森中に響いていた。


茶褐色の髪色を一つに束ねた若い女、オリビアは師匠アテナの突然の言葉にしばらく立ち尽くしていたが、頭の中をぐるぐると回転させながら言った。


「出ていくも何も…。孤児の私を拾ってくれて、ずっと此処で二人で生きてきたのに。行く所なんて無いですよ!まだまだ師匠に教わる事だってたくさん…」


「オリビア。もう、アンタに教える事は何も無い。だから荷物をまとめて、デリカリアに行くんだ」


師匠アテナはオリビアの言葉を遮って、真っ直ぐこちらを見ている。


デリカリアは、この家から少し離れた所にある街の名前で小さな街だが、冒険者を始めたばかりの者が必ず行くと言われている、いわば始まりの街だ。


ベルラーク王国では、15年前に突如として現れた魔王と魔物達に村や街を荒らされる被害が増えてしまった為、冒険者という職業が王命で出来ていたのだった。


しかしこの15年間、魔王を倒す者は現れず、魔王を倒すだろうと言われている【勇者】のポジションの者さえ現れていない。


「私がデリカリアに行く理由は何なんですか?」


オリビアが尋ねると、


「お前戦士なんだから、戦ってこいよ」


とアテナに一蹴された。


アテナのオレンジ色の髪の毛が家の窓から差し込む陽の光で一段と明るく、眩しく煌めいていた。


そんな明るい髪の色を、その背中を追い掛けるのが小さな頃からオリビアは…好きだったんだが。


「だって、師匠…。最近体調だって崩しがちじゃないですか。きっと一人じゃ大変な時も…」


と、オリビアが心配しても、


「あー、大丈夫大丈夫。もう年寄りだから、一人でのんびり暮らしてーからさ。それに、ぼちぼち暮らしてくからぜんっぜん大丈夫!」


と、屈託のない笑顔でアテナは笑い返した。


「年寄り扱いするなって言ったり、自分を年寄りって言ったり、どっちなんですか(笑)」


「もう冒険者免許も更新しないで返却した年齢だけど、なんか文句ある?(笑)」


アテナが冗談交じりに笑っているので、オリビアも何だかだんだん可笑しくなって笑いが出てきていた。


「ないですよ!もう定年期(この世界で65歳)ですもんね。…あっという間でしたね。何だか、行く以外の選択は出来なさそうですね」


「当たり前だろ、嫌がっても蹴り入れるからな!」


「師匠は強引だなー(笑)」



いつの間にか二人の言い争う声が、ふふっと笑い合う声に変わっていた。


木造の家の周りでは木々が風でそよいでいて、何処からかモンスターの声が遠くから聞こえている。


オリビアは右も左も分からない今日この日、突然旅立つ事が決定したのだった。

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