第31話 たおした気分

 窓枠にはりつけていたレジャーシートをはずした。窓ガラスのはめかたは、スマホで、窓ガラスのはめかたで、動画をけんさくして調べた。

 たぶん、この先、窓ガラスのはめから動画をけんさくすることは、あと一回あるかないかのけんさく体験だった。

 動画をみながら、ふたりで作業をはじめた。道具はぼくの家から持って来た。おもうに、こうした急な道具の用意も、隣の家に住むぼくなら、かんたんにできるとけいさんされていたのかもしれない。

 窓ガラス入れは、とどこおりにとどこおり、てまどりにてまどった。みごとに、あたふたにあたふたした。ひとときは、ケンカしそうになり、シマさんは腰に手をあてながら「きみとはテツガグがちがうなあ」と、いった。真剣な顔でそれをいうので、ぼくは笑ってしまい、ケンカの本格化は回避された。

 ようやく窓ガラスが入れ終わった頃には、つけなおした窓の向こうに、夕陽がみえた。

シマさんは、窓をみながらいった。

「ラスボスをたおした気分」

 ぼくは「シマさんが一番、ラスボスっぽい」と、いった。

「なんで」

「なんとなく」

「うん、わるくはないか、ラスボスっていわれたこと」シマさんは腕を組んで、そういった。それから、組んだ腕をといて「終わりだね」と、いった。

 シマさんの姿勢は、ぴん、と伸びていた。

「夕陽もみえてるし、終わりだ」

 彼女の終了宣言をきいて、ぼくも姿勢を伸ばした。そして「どう終わったんだろう」と、あてどなく、大きくなげかけた。

「どう終わってほしい」

シマさんが、大きくなげかえしてきた。

 ぼくはかんがえた。そして、聞いた。

「ここは壊すのかな」

「壊すらしいよ」

「そのあとは何になるの」

 シマさんはしばらく黙っていたけど「何になればサイコーだろうか」と、また大きくなげかえしてきた。

 ぼくはかんがえた。

「ここは昔、森だったって。だから、森に戻るならいいかな」

「森?」

「この図書館がなくなるのは、ぼくのじんせいにはきびしい。でも、ここがもとの森に戻るなら、それならいいか、って思う」

「森へもどる」

「森へもどるならいいよ。じつは森の精霊とは、少しの間、ここをかりて、みんなに本を読む世界をくれていただけで、そういう約束だった」

「うちのおじいさんと森の精霊の約束だった、ってこと?」

「そう、シマさんのおじいさんと、森の精霊の約束」

 ぼくは、シマさんへいった。

「それが森ノ木図書館の最終回」

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