第30話 その時が

 日曜日の午後、森ノ木図書館の前へ荷物がおかれた。

 配送業者さんが、専用のトラックで運んできた。

 ひらべったく、絨毯のように大きいダンボールだった。

 私服のシマさんと、私服のぼくがそれをみおろす。

 よく晴れた日だった。でも、涼しい。春はおわって、夏がちかづいている気がする。

 シマさんは腰へ右手をそえて立っていた。ぼくは、その横で、しぜんなかたちで立つ。

 やがて、シマさんがいった。

「その時が、きた」

 ぼくは、その横顔をみかえす。

 あんしんしたような印象をうける表情だった。

ぼくは「シマさん」と、名前を呼んだ。

「三日村くん」

 と、向こうも名前を呼び返して来た。

「きみもシンジツはわかっていたんでしょ」

 そういってきたので、ぼくは、しばらく黙っていたけど「いや」と、正直に反応して、さらに「え、シンジツ?」と、いった。

「うそ、わかってなかったの?」シマさんはおどろいた。「うそ、とちゅうから、かんぜんにわかっているものかと」

「どういうこと」

「すべてしっていて、わたしをおよがせているものかとばかり」

 シマさんはそうおもっていたのか。

 ぼくは「こころあたりがない」と、いった。

「あれだよ」シマさんが地面に置かれたひらべったいダンボールを見る。「あれさ」

「あれって」

「わたしときみが、はじめて遭遇したとき、おぼえてる? おたがい未知での遭遇」

「おぼえている」

「そのとき、ドローンで、わったじゃん、わたし、窓ガラス」

「うん」

「これは窓ガラス」

 そういって、地面のひらべったいダンボールをまたみた。

 ぼくもみた。

「注文したの」シマさんはつづけた。「わった窓ガラスに入れるガラス。わたしがわったことがバレないように、こっそり修理しようとおもって」

ぼくは、いませつめいされたことを、じっくりかんがえてから「え、修理するの?」と、いった。

「うん、なくなる図書館とはいえ、ガラスわったのを家族にバレると、おこられるはず」

「わるだくみ?」

「でね、ガラスを注文して、配達時間は学校がすぐ終わってここに来れば、ぎりぎり間に合う午後の時間に配達をおねがいしたいいんだけど。届く時間帯は決められるけど、日付はきめられなくって、いつここにガラスが届くか来るかはわからなかった。だから、ここ数日の間、放課後にこの図書館に来てたの、このガラスをうけとるため」

 そうだったのか。

 ええっと。

「でも、ひとりでガラスを交換する自信なんてなかったし、きみに手伝ってもらおうともくろんだ」

 ああ、だから、毎日、ぼくをここへ呼んでいた。

「まあ、そういうことなんで、お願いしていいかな、手伝い」

 シマさんはぼくを見て頼んで来た。

そして、みかえしていると、時間差でウィンクして来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る