第27話 ずっと

 本の無い図書館。それは、昨日から変わらない。

 ぼくはシマさんと一緒に、図書館の一階から、二階へつづく階段をあがる。

 ふたりとも、あいかわらず、学生服のままだった。

 そして、ふたりして、図書館に二階の席で向かい合う。昨日とまったく同じ図だった。

 シマさんは、ぼくの顔をみていった。

「なにかあったの、今日は顔つきがとちがう」

「うん、あったよ、なにかが」

「洗顔をかえたとか?」

 どうやら、シマさんは、ホントに洗顔のなにかを変えたんじゃなかと思っていたらしい。

 なんとなく、さっちできた。

 そこで、そうじゃない、みたいな顔をしてみせた。

「え、なにがあったの」

「女の子にだまされたんだ」

 そういうと、シマさんは、ぽかん、とした。そのあと、じぶんのことをいわれたのかと思ったらしく、目をそらした。

 やましいことがあるらしい。

 ぼくは「でも、だまされたのが、おもしろかった」と、いった。「すごく」

「すごいのか」

「うん、しびれるくらい、おもしろかった。いまもまだ、おもいだすと、おもしろくなる」

「のろいのようだ」シマさんは、そう感想をのべた。それから「いえ、わるいイミじゃなくね」ともいった。

 だったら、どういう意味なのかは、みえてこなかった。

「いや、わるいイミじゃなくね」シマさんは、またいった。さらにいった。「そう、わるいイミじゃなくさ」

 四回目も言うのか、とおもってかまえた。でも、いわなかった。

 かわりにシマさんがいいはなつ。

「あのさ、そうじしよう」

「そうじ?」

「そうそう」

 シマさんはぐんぐんと、首をたてにふってうなずいてみせる。

 そして、ぼくがなにかをこたえるために、シマさんは立ち上がり、歩き出す。

「そうじの道具はおいてあるし、そうじしてあげよう、ここ。われわれのチカラのおよぶかぎり、きれいにしよう」

 まるで動物をあらってあげよう、みたいな感じでいう。生き物をあつかうように。

 きゅうな提案だった。でも、すぐにおもった。ぼくは生まれてからずっと、この図書館に通っていたのに、掃除したことは一度もない。

 つかっただけだった、いっぽういてきに。

でも、この図書館はいつ来てもきれいだった。それはとうぜん、誰かが掃除をしていたから。

 本もきれいだった。どの本だって、手にとって、ほこりを払うようなことはしたことがない。ちょっと、やぶけたり、こわれた本、ていねい補修もしてあった。

 床にゴミが落ちていることもほとんどない。図書館前の通りだって、朝は落ち葉があっても、夕方には、ほとんど落ちていなかった。

 窓ガラスだって、いつも透明だった。いまは、いちぶ、レジャーシートになってはいるけど。

 あたりまえだけど、きれいなのは、だれかが掃除しているからだった。

 ぼくは「うん」と、うなずき、立ち上がって、シマさんの後に続いた。

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