第25話 かみをかいほう
運はなかったようで、瀬々さんの話をきけるチャンスはなかなかやってこなかった。
けっきょく、その日の授業が終わって、放課後になって、ぼくが意を決して、帰ろうとした席を立った瀬々さんへ声をかけた。
「あ、瀬々さん」あわてて、呼び止める。「ストップで、瀬々さん」
「え、なに?」
「あの、朝の相談のことなんだけど」
「なに」
「というか、瀬々さん、はやく帰らないマズい用事とかあるのか? その用事があるならひきとめるのはわるいかなって」
「ないよ」
「よかった」
「それで、あの、朝の相談のこと」
「わたしが魔法少女になったって話?」
「それ」
「よし、話してあげよう」
そういって、瀬々さんはまた席に座った。
「たすかります」と、ぼくの口からそんなことがでた。
師匠と弟子みたいだった。
「三日村くん、小説読むでしょ」
「え、うん」
「マンガも読むでしょ」
「うん、読む」
「アニメも映画も見るでしょ」
「うん」
「アニメ映画も」
「みるみる」
なにかの確認みたいなやりとりだった。なんだろう。
「マンガとかで、なにかで、主人公の男の子がこまってるってこと、よくあるでしょ? にっちもさっちもいかなくなって、どわー、ってなってる」
ん、ますますなんの話なのか、わからないぞ。
とりあえず、だまって聞いてみることにした。ぼくのほうがおしえてもらっている立場だし。
「そしたらさ、なぜか、どこからともなく、このセカイのことをなんでもわかっているフンイキの女の子が登場してきて、しかも、その女の子が主人公の男の子をほぼ、わけもなく助けるようなことを教えたりしてくれる展開あるでしょ」
「え」そういわれて、どのマンガだ、とか、このマンガだとか、すぐにはタイトルまでは思い出さなかったけど、でも、そういうマンガには、こころあたりがある。「うん、よくある展開だね」
「そう、どこからともなく、なぜか、主人公の男の子を助けるために現れる女の子。ふしぎなチカタを持ってたり、とくべつなことを知ってたりする女の子。物語にでてくる、そういう、女の子にこころあたりあるよね?」
「うん、こころあたりがある」
「あのね、そういう物語のなかで、なぜに好意で、主人公のことをいい方向へ導く、ふしぎな女の子『マジカル・ガール』っていうんだって」
マジカル、ガール。
って。ん。
「というわけで、いまわたしがそれだよね。三日村くんを、こうして導いている」
どういうこと。瀬々さん
「わたしは、君の物語のマジカル・ガール」
瀬々さんはそう宣言した。
ぼくはというと、妙に圧倒をされていた。
「というワケでじつは今日、ずっと、わたし、考えてんだよね。朝、三日村くんに、わたしは魔法少女になったー、とか、大きな発表をしたのはいいものの、言ったときは、なにも思いついてなかった。でも、一日中、ずっと考えて、ちょこっとネットとかでしらべて、この答えをみつけた」
瀬々さんは、窓の外へ顔を向けながらそういった。
「なぜか、主人公の男の子の前に現れて、いい方へ導く女の子を『マジカル・ガール』って、いうことを」
つかんだ答えを、瀬々さんはうれしそうにはなす。
「どんな超むずかしい問題だって、時間をかけて考えてみたら、なにか、こたえっぽい、こたえがつくれるものさ」
と、瀬々さんはいって、かみをしばっていた、ふたつ結びのふたつをとる。
かみをかいほうしてみせた。キメポーズみたいに。
それは、かっこよかった、すごく。
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