第24話 時間切れ
その夜、家でスマートフォンをつかい、AIに聞いてみた。『ぼくの家に隣にある図書館がなくなる』と、入力した。
すると、AIからは『残念ですね』と、答えが返って来た。
「たしかに」と、ぼくは納得して、スマートフォンを置いた。
翌日の朝になって、学校へ向かう。家を出て、通り過ぎる図書館は、なんだか、昨日よりひっそりとしてみえた。本が全部なくなってしまったからかもしれない、もう呼吸していないみたいだった。
図書館で働いていた人はどこへいったんだろう。いまになって、それを気にしながら、歩く。
学校へ着いた。
教室へ入って、じぶんの席へ座る。
とたん、隣の席に座っていた瀬々さんが「おみくじをひいたら、白紙だった」と、いった。
いまのはなんだろう、と、思って見返す。
今日の瀬々さんは、短い髪を、ちょっと無理やり、ふたつしばりにしていた。眼鏡のかたちも、ふちの黒いプラスチックのフレームだった。
ぼくはカバンの中から筆記用具と、教科書をとりだしながら「はい?」と、瀬々さんをみかえした。
「三日村くんの表情を見て、その感想を言語化した」
瀬々さんがそうかえしてきた。
正直、べつのことを考えてて、あまりしっかり聞けていなかった。
でも、瀬々さんはすごかった。あまりしっかり聞いていなかったということを、いまのぼくの表情から、よみとったのか「君、おみくじをひいたら、白紙だった、みたいな顔をしているよ」と、あらためていってくれた。
ただ、あらためていわれたところで、ぼくはうまく反応もできず「そうなの」と、つまらない反応をしただけだった。
瀬々さんは「おくればせながら、おはよう」と、あらためて、あいさつもしてくれた。
「あ………おはよう」
「君、おみくじをひいたら、白紙だった、みたいな顔をしているよ」
その言葉は三回目だった。
もしかして、瀬々さん、気に入っているのかな。
せっかく声をかけくれたんだし、応じてみよう、がんばって。
「ぼく、そんな顔をしているの」
「相談のろうか」
瀬々さんは、いろいろ発生しそうな説明のやり取りをスキップして、そういってくれた。
相談。
一時間目の授業が始まるまで、まだ、五分はあった。
「いや、なんでもない」
ぼくは、はぐらかした。五分の相談でかいけつできる気がしない。
「だいじょうぶだよ」瀬々さんはあっけらかんといった。「さあ、相談するんだ、時間はかぎられている、いそげやいそげ」
めいれいっぽく言ってくる。
「さあ、いまがチャンス、いましかないんだよ、この瞬間は。あ、ほら、ぼんやりしてたから、さっきいまだった時間が、もう過去の時間になっている、と、言ったいまも、次々に過去になる」
こぶしをにぎしりめながらそういう。ちょっとした熱弁だった。
「あと、四分になった、せんせい来ちゃうよ」
ぼくは「瀬々さんってそういう、感じだったんだね」と、いった。では、どういう感じか、ぐたい的にいった気がしなっかったので「色でいったら、発光パープル」と、ついかでいってみた。
「発光パープルってなによさ」
「ごめん、なんとなく」
「相談するならゆるそう」
しまった、取引の材料をあたえてしまった。もう、にげられない。
いや、にげられるか。でも、ここまでくいさがられたら、しかたない。
「図書館がなくなることだよ、かんがえればかんがえるほど、きもちがダメになる」
「ああ、やっぱ」
「あ、わかるの?」
「いえ、やっぱ、って、いってみただけ」瀬々さんは、から、っとそうこたえた。「でも、火曜日だっけ? 水曜日だっけ? そのときに、三日村くんの家の隣にある図書館がなくなるっていったとき、すごい表情してたしね、あれから、なんか様子がヘン―――じゃなくて、あきらかに、カオがヘン―――じゃなくて、ようすがヘンだったから」
「いま途中で、わるぐちが登場しなかった?」
「時間がないよ、あと二分」
いろんな意味で、瀬々さんは、残り時間を有効につかっている。
「だから、つまり、ぼくは、なにもできない、ってことだと」
「その気持ちを二文字でいうとしたら、どう」
どうして、この気持ちを二文字でいわなければならないのか、来るべきときが迫っているせいか、それのぎもんはさておき、ぼくはこたえていた。「無力」
「無力。じゃあさ、もしも、どんなことでも、なんでもできるってなったら、どうする」
「できないよ」
「もしもの話だよ。そんなふうに、まっさきにイマジネーションをけちらさないで話してみなよ」
「むずかしって」
「むずかしことこそ、やりがいがあることなのかもしれないよ」
「りくつっぽいな」
つい、いやな感じでいってしまった。
でも、瀬々さんはいやな感じで返さなかった。
「ほいじゃ、わたしの話をしよう、しかも、てみじかにいく」
瀬々さんが肩の力をぬくように、姿勢をのばす。
「わたしは魔法少女になりたかった」いきなりそういわれた。「しかし、なるのはむずかしい」
ぼくは何回か瞬きしてから「そうだね」と返した。
「でも、わたしはいまなっている」
「どういうこと」
そのとき、チャイムが鳴った。
「時間切れか」瀬々さんは、たのしそうにいった。「この話は、また運がよければ、といことで」
そういって、話をズゴイところで切り上げた。
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