第23話 ぼくには

 けっきょく、その後は、なにもいいものは出てこなかった。ずるずる考えているうちに、夜が来たので、解散となった。

 出る前に、シマさんは図書館の中に明かりを消しにいく。二階の窓ガラスが割れた場所は、レジャーシーがはられたままで、風がふいて、ちょっとふくらんだりしている。それも、明りが消えると、暗くなって、どこがレジャーシートをはった窓なのか、わからなくなった。

 一階から外へ出て、シマさんが鍵をかける。彼女は駐輪場にとめていた自転車にまたがり、いった。

「じゃあ、また明日ね」といって、それから思いついたように「世界が続くならば」そう続けて、自転車で走り出す。

「うん、またね」と、ぼくはいった。そして「車に気をつけて」と、現実の危険性を添えた。

 ぼくは、図書館の隣にある自分の家へ帰る。

 シマさんの話では、森ノ木図書館は、あさっての日曜日までしか入れないらしい。もう、本はすべてなくなっているし、そもそも、こうして、建物の中に入れているのも、特別なことでしかないけど。

 森ノ木図書館が無くなれば、これまでずっと、ぼくが人にいっていた、ぼくは家は図書館の隣です、という説明もできなくなる。

そうかんがえると、ふしぎな気持ちになった。まもなく、ぼくは、じぶんの家の場所の説明のしかたを変えなければならない。

 毎日のように森ノ木図書館には通っていた。今日までは、たまたま、ぐうぜん、きせきで、延長戦みたいなもので、こうして図書館の中へ通うことができたけど、それも、あと二日でできなくなる。おわりが来る、もうぜったいに来る。

 その先は、森ノ木図書館に行かない日々が始まる。

 そう、がんがえはじめて、途方に暮れた。

 森ノ木図書館がなくなる。ぼくにはどうしようもできない。

 いまになって、ようやく、実感がわいてきた。

 ぼくにはどうしようもできない。

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