第19話 空

 図書館の一階から本がなくなっていた。

 本棚はすべて空っぽだった。

「もってかれた」

 本がなくなって、がらん、とした一階の真ん中に立ち、シマさんはいう。

「しかし、わたしが最後まで、見とどけなければ」

 ぼくは隣でぼうぜんとしていた。ああ、この図書館は、やっぱり、なくなるんだ、と、つよく感じた。一冊、二冊、本が消えたんじゃない、ぜんぶ本がなくなった。これを見てしまったら、図書館がなくならないで済む方法をかんがえようなんて、とても言いだせなくなった。

「二階の本はまだあるよ、三日村くん」

 シマさんがそう教えてくれた。

「二階の本はあした、もっていかれてしまう」

 シマさんはおちついていた。おちついているようにみえた。

 ぼくのほうはダメで、なにもうまくかんがえることができず、彼女の言葉を聞き、しばらくして、ようやく「そうなんだ」と、だけいえた。

 さいきんはぼくは、小説のおいてある二階にばかりいっていた。

 この一階のほうは、新聞とか、雑誌とか、絵本の本棚、それから図鑑もあるし、絵がついてわかりやすい文章で書いた小説もそろってて、漫画でおぼえる歴史、みたいな漫画もあった。小さいころは、よく一階で過ごしていた。二階は文字ばかり本がある場所で、大人がいく場所だと思い込んでいた。だから、記憶がある、二階へはじめてひとりで向かったときには、こわかったし、緊張した。なぜか、二階にあがると、怒られるんじゃないかとか、勝手に想像した。いまになってみると、考えすぎだった。

 それが、ここ数年だと、むしろ、二階で小説ばかりを読んでいた。

 あらためて、一階を見る。

 本棚に、本がない。

 ぼくは「終わりは止められないんだね」と、いった。

「でも、残された時間で最終回をかんがえることはできる」と、シマさんは言う。

 そして、堂々と、ちょっとだけ、よゆうがあるみたいな笑みを浮かべて。

 シマさんが言う、最終回、図書館の最終回は、まだまだ、ぴん、ときていない。

「二階へ行こう、二階はまだみんないるから」

 そういって、シマさんは先に階段をあがってゆく。

 みんながいるから、っていったな、いま。

それって、本のことかな。

 表現が気になったけど、シマさんらしい表現にもきこえたし、とくに聞き返さず、後を追いかける。

 階段の途中で、一度だけ、本の消えた一階を見渡した。

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