第17話 三十秒

 次の日、中学校にいって、授業を受け、昼休憩になり、昼ごはんも食べ、あと三分くらいで午後の授業がはじまる。

 そんな頃だった。

「三日村くん」

 ぼくの隣の席に瀬々さんが声をかけてきた。

「あれからAIに相談したの?」

 他のクラスメイトも、もうすぐ授業開始だった。もう、三分の一以上の人が席についている。そして、もう三分の一は、自分の席以外の場所に、でも、教室内にいる。残りの三分の一は、教室すらいない。チャイムがなったら、教室に駆けこんで来る気だった。

「AIに相談したの?」

 瀬々さんは、ふたたび聞いて来た。

 今日は、髪の毛をだんごにして、頭の上でしばっている。眼鏡は金縁だった。

「してないんだ」ぼくは正直にこたえた。「AI相談するにまえに、人間につかまって、つれてかれた」

「なに、変化球のデストピア? ちょっと、いっている意味がわからない」

瀬々さんか頭の団子を揺らしながら、顔を左右にふった。

 ぼくは「いまのはなしは忘れていいや」と、つたえた。

「わすれるものか」でも、瀬々さんはくいついてきた。「にがさん」

 しまった、つよいぞ、瀬々さんは。

 でも、なんだろう、瀬々さん、って、ちょっとシマさんに似てるな。顔とかじゃなく、その。

 あつりょくの、かけかたとか、似てる。

 そうか、だからかな、似てるからか。昨日、シマさんと話したとき、そんなに、あたふたしなかった。それは、シマさんと話す前に、瀬々さんと話したから、少しは練習になったおかげの気がしないでもない。あつりょくを感じながら、話す練習に。

 ぼくがかんがえていると、瀬々さんはいった。

「そう、じゃあ、AIの代わりに、わたしが相談にのる」瀬々さんは、だんげんした。ぼくの意志は、かくにんしないまま。「あと一分で授業はじまるから、一分だけなら、とくべつに相談にのろう、さあさあ、時間がないので、ばばんと、話して」

「えっと」時間制限でうながされ、ぼくは、あわてていった。「うちの隣にある図書館がなくなるんだ」

「知ってる、わたしがおととい、たずねたでしょ」

「ぼくは、ずっとその図書館に通ったたんだ。家で本を読んでた時間より、図書館で読んでいた時間のほうが、ずっと長いくらいの場所だった。でも、なくなる」

「だろうね、わたしも何度も見かけたよ、三日村くんがあの図書館にいるところ」

「そうなんだ」

 いつごろだろう。ちょっと、気になる。

「はい、あと、三十秒」と、瀬々さんはいった。「三十秒に、すべてをこめるべし」

「あ、わかった」

 そのとき、ぼくはわかった。

「なにがわかった」

「ぼくの願い、いま、わかった」

 こたえてすぐ、チャイムがなった。

 ぜんぜん、三十秒も時間は残ってなかったらしい。

 すると、瀬々さんは「時間ぎれか」と、いって、眼鏡のずれをなおした。

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