第16話 ていしょう
シマさんはしばらく、あごに左手をそえながら、だまって窓の外を見て、それからいった。
「で、図書館の最終回って、どんな感じだと思う?」
また、いきなり、風船をわるような、とうとつなといかけだった。
ぼくのほうは、こまるしかなくだまった。
図書館の最終回。
シマさんがていしょうする、図書館の最終回とは。
すると、シマさんは「まあ、座ろうか」と、いって歩き、館内にあったテーブルに座った。
ぼくは真向かいに座った。
シマさんを正面からあらためて見る。ちょっと緊張した。
そこへシマさんがまたいった。「図書館の最終回」
ぼくのほうも「図書館の最終回」と、なんとなくいった。
「もしも、ここに図書館の最終回って、本があったとしたら、それってどんな物語になるだろうか」
ゴールが見えていないのに、全力でサッカーボールをけるみたいな言い方だった。
そして、シマさんは頬杖をついて、うーむ、と、なやみだす。
もしかして、ぼくにきいたのかな、それ。
ぼくは「図書館の最終回っていうくらいだし」と、なにも思いついていないのに、しゃべっていた。「それは」
「それは」
ああ、期待のまなざしが来た。シマさんの目が、きらめいているし、身体も前のめりになっている。
ぼくはおいつめられた。
「怪獣………とかに、踏まれて終わる。この図書館が」
おいつめれて、出たのがそれだった。
いや、ぼくだって、ゴールが見えていないのに、全力でボールをけったことはけった。全力は尽くしたはず。
「その怪獣はどんな怪獣なの」
まさかの、シマさんが興味をしめした。この話はどこへ向かうんだろう。むざんな場所にしか向かう気はしないけど、彼女に聞かれて、ぼくは「本が嫌いな怪獣」とこたえた。
「どうして」
「いや、どうしても、きらいなんだ本が」
「そこを、わたしは知りたい」
ぐいぐい、くる。つめよってくる。
しかたない。思いつかないまま、この話をつづけよう。おそらく、どこかのタイミングで、シマさんもあきらめるだろう。いくらここを掘っても水は出ない、という感じで、あきらめるはずだ。
「本が嫌いになるようなことがあったからさ」
「どんなことが」
「一生懸命読んで書いた読書感想文の感想が、一言、ヘタって言われたから」
「だれに」
「人間に」
「怪獣が書いた読書感想文を人間が読むの?」
「怪獣になるまえ、その怪獣は、人間だった」
「なるほど、怪獣は人間だったのか」
「もともとはそうだった」
「かなしい、はなしだ」
と、シマさんは短い感想をいった。そして、つづけた。
「そっかぁ、では、この図書館の最終回は怪獣に踏みつぶされるのか」
まるでこれから実際に起こるらしい予言を聞いたみたいは反応だった。
彼女は椅子の背もたれに、大きくよりかかって、天井を見上げた。
ぼくもなんとなく天井を見上げた。それから、いった。
「どうも、しんせんな気分だ」
「なにそれ? そこの三日村くん」
「だって、図書館の中でしゃべるのはダメなのに、いまこうして、ここでどうどうと話してる」
「まあ、わたしたちしかいないからね。いまや、ここは自由に発言できる場さ」
シマさんは、天井をみつめつづけながたいった。
ぼくは「最終回だからゆるされることだね」と、いった。「図書館の」
「いっそここ歌ってもいいよ、三日村くん」
「もうしわけないけど、歌声の安売りはしないんだ」
あまりかんがえず、そうこたえ返した。
「プロ意識があるのね」シマさんはそういった。「わかった、その意識は、そんちょうしよう」
そして、シマさんはつづけた。
「まあ、今日はこれくらいでカンベンしてあげよう。引き上げよう」
席を立った。
なにに対してカンベンしてあげているのかが、ぼくにはわからなかった。
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