第14話 あんぱん

 家に帰ってスマートフォンで、AIに相談する、

その前に、つかまった。

 シマさんは、うちの庭に咲いているあじさいを見ていた。今日も学生服姿だった。

 ぼくが帰って来ると、ふりかり「いかんね」と、いきなりなにをダメだした。「ゆだんした顔だね、家の庭にわたしがひそんでいたのに、なにも気づかず、のこのこ帰って来た。もしもいまが戦国時代だったら、不意打ちされて、天下をとりへの道をがしているよ、三日村くん」

「そうは思わない」

 とっさにいわれたので、こっちもとっさに正直に思ったことをこたえてしまった。

 すると、シマさんはいった。

「今日も咲いてるね、あじさい」

 会話の流れとは、カンケイないことを。

 どうたら、ぼくのきりかいしの言葉を、べつに気にしていないみたいだった。

 よかった。

「あと、そうは思わないって、かえしは、ひじょうに冷たい印象を受けた」

 いや、気にしていた。

「君、こころが、凍っているんじゃないかな」

 しかも、すごく気にしている。

でも、ぼくは、シマさんが気にしていることを、気にしないことにした。

そうしないと、話がすすまない気がしたので。

「シマさん」

「おかえり、三日村くん」

「ただいま」

「学校、どうだった」

 母さんみたいなことを聞かれて、つい「その情報、ホントに知りたいの?」と、ききかえす。

「いや、まずは、カタチだけ、カタチだけの世間話だ。なんなら、いきなりホンダイへ入ろうか」

「あの、そのまえに、このカバンをうちのおいて来ていいかな」

「そのカバン、君に似合うに、おいてきちゃうのかい、家に」

「え、ああー………」

 学校推奨のありふれたカバンだった。むかしは、学校指定だったらしいけど、いまカバンは自由に持てる。

 そんなカバンが似合うと褒められた。

「ちょろいね、三日村くん」

 そういってシマさんは、口を右手でかくす。笑っているらしい。

「猫と同じで。ちょっと、のどの下をなでてやると、すぐ、デレにゃんとなる、たやすいったらないよ、はは」

「そういう発言って、どこで習うの」

気になってきいていた。いや、こたえは期待していない。

そして、こたえはなかった。

 ぼくは家の鍵をあけて中へ入った。玄関にカバンを置く。ほんらい、カバンはじぶんの部屋までもっていかないと、母さんの指導が入る。でも、いまは、指導かくごでカバンを部屋へ置てくる時間を短縮した。

 すぐに戻って来たぼくへ、シマさんは「はやいな、ちゃんと手洗い、うがいした?」と、いった。

 ぼくは家の中へ戻った。洗面所にいって、手を洗う、うがいをした。

 そして、玄関へ戻る。シマさんは、まるいなにかをたべていた。一瞬、うちのあじさいをもぎって食べているかと思った。まさか、君は、あじさいを食べる妖怪なのか、と。

でも、よくよくみると、まるいパンだった。

「あんぱん」シマさんはパンの種類をおしてくれた。「君のもあるよ」

 さらによくみると、シマさんの足元に、カバンがあった。彼女はしゃがんで、カバンのなかから、あんぱんをひとつ取りだした。紙袋から、駅前のパン屋のパンだとわかった。

「たべなよ」

「たべなよ」ぼくは、彼女のいった言葉をそのまま、じぶんでも音声ではなった。「きゅうに、あんぱんをたべろと」

「えづけ」

 シマさんはそういった。

「どんな、毛並みがとがった猫も、えづけには勝てない」

「また猫とおなじにするんだね、ぼくを」

「あんぱんの、あまいゆうわくさ」

「しらない人からもらったものを食べちゃいけない、って、さまざまな大人の人からおしえてもらったんだ」

「では、本日の作戦を発表します」

 シマさんは、こっちの話はきかず、話をすすめていった。しかも、けっきょく、ながれで、ぼくはあんぱんを受けってしまっている。

「あんぱんを食べながら発表をきいてもいい」

 そんなゆるしをぼくにあたえてから、シマさんは話す出す。

 ぼくはえんりょなく「いただきます」と、いって、シマさんと、あんぱんに一度、あたまをさげてかじりつく。パンの上についたゴマのかおりとともに、パンのあじ、あんこの味が口の中にてんかいされた。

「これから、森ノ木図書館の最終回をみつけに森ノ木図書館へ潜入します」

「え、ぐぅ、なにって?」

「ゆえに、あんぱんなんて食べているときではないよ、三日月くん」

「へいぜんと、りじんをいうんだね」

「潜入っていっても、カギはある」

 シマさんは一枚のカードをとりだて、ぼくへ見せた。表面がきらきらしてて、女の子の絵が描いてある。

 ゲームセンターのゲームで出てくるカードみたいだった。

「まちがえた」シマさんはそういって、そのカードをしまい、べつのカードを出した。「これは、わたしの命の次に大事なコレクションだった」

 今度は、真っ白いカードだった。表面には、なにも描かれていない。

「かーど、きー」

シマさんがそういうので、ぼくも「かーど、きー」とつられていった。

「これから、ふたりで森ノ木図書館へいって、図書館の最終回をみつけに行く」

「あのさ、しばしば、シマさんのコメントにまじってる、その図書館の最終回って、なんなの」

 ついに、ぼくはそれが聞いた。ずっと、しっくりきていなかった、それを。

「わたしにもわからない」

シマさんは、どうどうとそういった。

「わからないけど、なにごとも最終回をみとどけないと、わたし、モヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤ、するタチで」

「すごいモヤモヤしてるってことだけは、つたわった」

「でしょ」シマさんは少し表情をあかるしてから「ねえ、あんぱん、うまいか、ボウズ」と聞いてた。

「あんぱんはおいしいけど、図書館の最終回のはなしは、なんか、マズいはなしなんじゃないかと、想像してるよ」

「君、そこの君よ。現実を生きるまえに想像と、現実を生きたあとにする想像は、べつもの、べつもんだよ、だから、そこは、あんしんして」

「いや、あんに、あんしんできないとつたえているんだけどね、まず」

「え、あんに? あんぱんの、はなし?」

 ああ、かみあっていない。

 あんぱんをかみながら、そう思った。

「まあ、わたしのめんどうに付き合うのが、三日村くんの運命だし」

 あと、また、遠慮なく、りふじんをつかってきた。

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