第13話 AI

 人はなにか、なやみがあるとき、親友へ相談することがある。

 ぼくにも親友がいる、宇賀くんだった。同じ中学一年のクラスで、小学校の五年生のときも、同じクラスだった。六年生のときは別のクラスで、一年間の友人カンケイ休眠期間をはさみ、中学校で、また親友として、復活を果たした。

 宇賀くんはピアノをひくことと、絵を描くのが得意だった。ぼくは、まえに、だったら、ピアノの絵を描けば、といって、ムシされた過去がある。

 でも、親友だった。

 けど、宇賀くんには相談できそうにない。なぜなら、宇賀くんはいま、ゾンビが出てくるドラマにハマっていて、ゾンビドラマの話しか受けつけない状態になっている。かりに、うっかりと、なにかを話かけたらさいごだった、宇賀くんは、ずっと、ゾンビ、ゾンビといって、ゾンビがこう、おそってきたら、こーかえす、もしくは、こーのがれるべし、と、発表しつづけてくる。どうやら、宇賀くんの頭の中は、ゾンビのことで、ぎゅうぎゅうらしいので、人の相談に画期的な答えを出せる状態じゃなさそうだった。

 ゾンビの相談なら、いいのかもしれない。

 でも、シマさんはゾンビじゃない。

 ゾンビじゃないけど、だとしたら、なんなんだろう、あのこは。まあいいや。

 いや、宇賀くんの他にも親友はいる。鳥羽目くんだった。かれは、そう、かれこそは、ぼくの読書仲間だった。かれは学校にいるとき、よく本を読んでいる。ぼくも読むので、いま、なんの本を読んでいるかはよく聞くし、おもしろい本は教え合う仲だった。ものしずかで、小学校も同じで、二年生と、四年生のとき一緒のクラスだった。

 でも、鳥羽目くんにも相談するのも、ちょっと迷いがある。

 なにしろ、ぼくの数少ない、いいや、ほとんどゆいいつといっていい、ぼくの読書仲間だった。

 こんな、みょうな相談をもっていって、いまのカンケイをコワしたくない。

 この相談が、ぼくと、かれとのカンケイをコワすような内容になるのかはわからない。ただ、ぼくは、これまで、だれかに相談をもちかけるなんて、これまでやったことがなかった。だれかに相談するって、いったい、どんなふうにすればいい。きほんてきに、相談のやりかたがわかっていない。

 もし、鳥羽目くんに相談するとなると、人生はじめての本格的な相談になる。

 ついては、鳥羽目くんを、こんなはぼくのはじめての相談、いわば実験みたいなことにまきこむことになる、

 鳥羽目くん。

大事なぼくの読書仲間の、鳥羽目くん。

 かれを失うのが、こわい。

 ああ、ちょうどいい相談相手がほしい。

そうだ、AIとかに、きいてみようか。

 そんなとき、隣の席の瀬々さんがいった。

「なやみごとがあるカオ」

 ぼくに話しかけるような、見たままをただ言ったような、ふしぎな言い方だった。

 おもいっきり話かけられていなら、あまりしゃべったことのない瀬々さんだし、あわてて、あわあわ、いっていた。けど、話かけれてるのか、ただ言っただけのなのか、わからなかったので、ぼくは、まず、きょとんとしただけだった。

 見返すと、瀬々さんもこっちを見ていた。今日は、髪を真ん中でわけていて、おでこがみえる。眼鏡のフレームの色はミントグリーンだった。

 ぼくは、なんとなく「瀬々さん」と、名前だけいった。

「ん、なに?」

 瀬々さんは口を、一の字みたいに閉じながら、こっちを見返す。

 ちいさな動物の警戒心だってときそうな、そんな、ふんわりした表情だった。

「なやみごと」と、ぼくはいって、息を吸ってはいてつづけた。「が、あるんだ」

「あるの? なやみ?」

「うん、ある。あるんだ、なやみごと」一度、そういってしまったら、こころをかこっていたかたい何かが、ふきとんだ感じだった。ぼくは「あるんだ、なやみごとが、あるんだ、うん、うんうん」と、何度もうなずきながらいっていた。

「ふーん」

 瀬々さんは、うすい反応をした。

「AIとかに聞いたら」

 あ、同じ発想だ、このひと。

「解決するかな、AIに相談すれば」

「AIがある未来だもの、いま、この時代は」

 なにか、CMのセリフみたいな言い方だった。

「瀬々さんはAIになにか相談とかしたことある」

「毎日のオシャレ」

「毎日のオシャレ」ぼくは、おうむ返しした。

「毎日のオシャレをAIに決めてもらってる、条件をつけて。たとえば、かぎられた予算で、しかも、学校の校則のはんちゅうでー、よろしく、とか、あと、一回やったオシャレじゃないことー、とか。そういう条件をだして、AIに今日のわたしの生き様を決めてもらってる」

 ぼくはあぜんとしたあと「未来人だ」といった。

「わたしが未来人なら、同級生のきみはなんと呼ぶべきか」

「そうなんだ、そういうのも、AIに相談できるんだよね」

「うん、できるよ、じゃんじゃん、できる」

「そうか、やってみようかな。AIへ相談」

「AIはいいよ、何回おなじこときいても、ぜんぜん、おこらないし。にんげんなら、おこるし、いらいらするけど、AIならだいじょうぶ、何回おなじこときいても。というか、さっき、わたしのこと、未来人っていわなかった?」瀬々さんは、そう聞いたかと思うと、そのままつづけてしゃべった。「なんか、わたしさ、小さいころ、スコップで公園とかの穴をほりまくってたら、地底人って、呼ばれていた時期があって」

「じゃあ、未来の地底人だね」

「合体させなくていい」瀬々さんはあきれたようにいった。「でも、地底人の未来がわたし、ともいる」

 そのとき、呼び鈴が教室にひびいた。

 けっきょく、ゴールがわからないまま始めた、瀬々さんとの話は、そこで、きりあげとなった。

 そして、ゴールはわからないままだった。

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