第10話 強敵

 これは、ここでの落とし物だけど、図書館は閉まっているので、とどけることができない。

 しかたなく、一度、家へ持って帰った。母さんが帰ってきたら、どうしようか相談するつもりだった。

 母さん、今日、ぼく、ドローンをひろったよ。

 ふしぎな報告をすることになるんだろう。

 でも、きっと、交番へ届けるのが、オトしどころだろうけど。

 そういえば、ドローンって、けっこう値段が高いのでは。

拾ったドローンは、つばさ広げた鳩くらいの 大きさで、高さはコップぐらいだった。でも、軽いので、片手で持ち上げられた。ほとんどプラスチェックでつくられているらしい。ハネはうすいく、少し力を入れると、折れてしまいそうだった。

 いったい、どうして木の上にドローンが。

 ひとまず、自分の部屋の机の上において、ながめながら考える。ちょっと、よごれているので、かるく、台所から持って来たキッチンペーパーでふいてみた。

 ドローン。

 ドローンか。

 そういえば、いままでドローンというものをしってはいたけど、ドローンをこんなに近くで見たことはなかった。小学校の頃、ドローンを持っていた友だちはいたけど、彼のドローンは、もっともっと小さかったし、いかにも、オモチャだった。それに、家の中で飛ばして遊ぶ用だった。

 その印象でいえば、これは、その。

「プロっぽいな」

それを感じる。

 そのまま観察していると、ドローンの上の方に、いかにも電源ボタンらしきものをみつけた。見て見ると、電源はオンになったままだった。

 ということは、バッテリーの残りがないのか。と、思っていると、電源ケーブルをさす場所をみつけた。さし口は、丁度、机にあるケーブルではめこめるカタチだった。それで、なんとなく、電源ケーブルを差し込むと、すぐにドローンについた小さな丸い赤い明りがついた。でも、ただ、それがついただけで、あとは、ウンともスンともいわない。

「こわれてるのかな」

 そのとき、ドローンの赤いランプが青になった。すると、今度は、扇風機の五百倍ぐらいの音がなって、ドローンは花火みたいに天井へ向かって飛んで、ぶつかって、ななめ下へ落ちて、そこにあった棚にぶつかって、さらに、はじかれたように、ななめ上へ向かって、部屋の天井すみにぶつかって、ななめに落ちて、そこにいたぼくの背中へぶつかって、また、部屋のどこかにぶつかって、ふたたび、ぼくにぶつかって、部屋のどこかへぶつかった。

 パニックだった。

 パニックって、検索したら、動画で出てきそうな感じになった。

 とにかく、暴走したドローンがぼくのからだと、ぼくの部屋中に、ごんごん、ごんごん、ぶつかる。からだにあたったとき、たいして、いたくないのが不幸中の幸いだった。

 でも、不幸中にはちがいなかった。ドローンは止まる気配がない。

 テーブルホッケーみたいに、ぼくの部屋をカツンカツンと攻撃している。

 こうなった。

 いっそ、窓をあけよう。

 ぼくはドローンにこうげきされながら、窓まで向かい、いっきょにひらいた。

 空にはもう星が出ている。図書館の明かりは完全に消えている。

 そして、ドローンは、窓の外へ。

 いや、いかない。

 きっと、キセキだった。ドローンは、キセキで、ちょうど、あけた窓にだけむかわない。ほかには、すこん、すこん、ぶつかる。壁、天井、本棚、カバン、鳥の置物、などなど。

 終わりは、とつぜんだった。ドローンは電池が切れたのか、ふっと、床に落ちた。

 それでぼくはいった。

「………強敵だった」

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