第7話 名前は

 母さんは人から図書館がなくなるのを知ったみたいだった。

 でも、ネットで検索しても、そのことはどこにも書いてなかった。いや、もともと、森ノ木図書館の公式なホームページはなかった。非公式な図書館の情報サイトで、開館、閉館時間、それから地図が書いたあるくらいだった。

 それでも、ネットのどこかに、なくなることが書き込んでないかさがしたけど、みつ からなかった。森ノ木図書館はネットの外側にあった。

 ホントなのか、しりたかった。でも、ネットではホントかどうか、わからない。

 まいってしまった。まいってしまいながら、その夜は眠りにつき、でも、まいっているから、なかなかねむれなかった。それでも、ねむくなって、いつの間にかねむって、朝になり、目がさめてもやっぱり、まいっていた。

 まいったこころ持ちで、家を出て中学校へ向かった。

 いつものように、森ノ木図書館の前を通る。

 そして、いつもなら雨と雪の日以外、図書館の前でだれかが落ち葉の掃除をしているはずなのに、今朝はだれも掃除をしていなかった。朝のこの時間は、図書館はまだあいていないので、明りは消えているので、それもまた、いつもの朝の森ノ木図書館の姿だった。

 でも、なんだか、今日は明かりが消えている様子を見て、すごく不安なきもちになった。

 学校についてからも、ずっと、考えていた。

 なくなるのか、森ノ木図書館が。

 でも、もしかすると、まちがいかもしれない。ネットには、そんなことどこにものってなかったし、それに、いきなりすぎる。急に図書館がなくなるなんて、それも、まえもって発表もなく。そんなことが。

 そんなことが。

 でも、どうなんだろう。そういうものなのかな。

 たしかに、昨日、図書館の中に職員の人をみかけなかった。

 かわりに二階の謎の女子がいた。

 それに、ぼくが一度、図書館の外に出たら、もう中へ入れなくなった。

 朝、図書館の前を掃除している人もいなかった。

 ここまでの情報を、なかでならべてみる。

 かつて読んだ探偵小説では、こうして、とりあえず、情報をならべることで、見えてくることがあると書いてあった。

 授業中、右手でペンを回しながら考える。

 このなかで、いちばん気になるのはなんだろうか。まっさきにあたまに浮かんだのは、あの女の子だった。隣の中学校の制服を着たあの子。

 名前はまだ、ない。

 ちがう、名前はきいてないだけだった。あの子はいったい、なに者だったのか。

 あの子が、犯人なのか。

 犯人って、なんのだ。そういうことじゃなくって、かんがえる方向に、こんらんがみられる、だめだ、ぼくは、いま、ちょっとしたパニックになっている。

 でも、やっぱりあの子が気になる。

 それに、べつの学校の女の子と話すのは、べつ世界の人と話すみたいで、特別なできごとにおもえた。

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