第6話 きいた
その夜、母さんがいった。
おおわらわで。
「あっ、あっ、あのさぁ! きいた? おどろきおどろき、森ノ木図書館がなくなるんだってさ!」仕事から帰ってきて、スーパーで買って来た食料品がつまったエコバックをテーブルに置き、そして、天井を見上げていった。「ショック」
半分は、ぼくへ言っている。もう半分は、じぶんでもどう受け止めようか、わかっていないみたいだった。
「超ショック」
あ、超だ。
母さんが、言葉に超をつけるのは、ホンキのときだった。
もちろん、ぼくもショックだった。いや、ショックじゃない、超ショックだった。 いまのは、聞き間違いだよな、と思ったりした。だけど、からだはいつもの習慣で、母さんが買ってきた食料品をエコバックからとりだいて冷蔵庫に入れている。タマゴはここ、牛乳はここ、魚はきっと冷凍室、と、入れていっている。
ちいさい頃は、こうして手伝うと、小さなおこづかいをくれるときがあった。いまは、くれない。そのけんについて、たずねたら、それはあなたね、お金で動く人間じゃなくなったってことさ、と、よくわからないことを答えたので、その日からあきらめた記憶がある。
そして、今日も母さんは仕事から帰って来て、テーブルにエコバックをおくと、かってに動く。
いつものように、からだは動いた。
森ノ木図書館が、なくなると知ったのに。いつものように、からだは動く。
でも、心のなかは、おだやかじゃなかった。ずっと、心の中で、わぁーわぁーぁわー、と、さけんでいる感じだった。
すぽん、と大きなものをぼくの中心から、ひき抜かれてしまったみたいだった。
そして、一時間後に、父さんが帰ってくると、母さんがまっさきにそのことを報告した。森ノ木図書館がなくなる。そういって「超ショックなんだけど」といった。
父さんは「なんと」と、いって、おどろき「それはきびしい」と、いった。
それから、ぼくを見ていった。
「大ダメージだな」
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