第17話 町の違和感

 お店の開店と宣伝のために、再び商業ギルドに顔を出すことにした。

 ある程度、興味を持ってもらえればお客さんは集まると思った。


「お茶屋? さすがに酒屋じゃないお店には人は来ないだろ」

「文句あるのか?」

「いや、誰だってそうだろ?」


 レイヴンは商業ギルドの人に圧力を放つが、他の人も同じ意見のようだ。

 私の住んでいた国では、貴族たちがお茶を嗜むお茶屋が存在していた。

 だが、お茶の木が豊富な魔王国にはお茶屋という概念すら存在していなかった。

 基本的に外ではお茶よりお酒を飲むのが一般的だと知ることができただけでもよかった。


「そんなに気を落とすなよ」

「大丈夫ですよ。地道にお客さんを集めましょう」


 別にお茶自体が知られていないわけではない。

 商業ギルドの中には好んで飲んでいる人もいた。

 銀狼族の家族にお茶を飲んでもらった時も、特に反応が悪かったわけではない。

 ただ、馴染みがないのが問題なんだろう。


「そういえばどこに向かってるんだ?」

「貧困街ですね」


 私がこの町に来たもう一つの目的をまだ終えてはいない。

 勇者たちは商業街でも暴れていたが、被害が多かったのは貧困街だった。

 貧困街より商業街を狙った方が、生活物資や資源の供給を妨害することができる。

 それなのになぜ貧困街を狙ったのかは、いまだに私にはわからなかった。

 貧困街は比較的防御が手薄だから、攻めやすかったのだろうか。

 ただ、魔王国自体の人々が反撃する様子もなかった。


「たしか……この辺だったんだけどな……」


 貧困街は賢者が家を燃やしたり、勇者達が国民に斬りつけていたはず。

 それなのに何事もなかったかのように、人々は普通の生活をしていた。


「あのー、少し聞いてもいいですか?」


 近場にいた女性に声をかけることにした。


「この間、町が襲撃されるなどの怖いことは起きてませんでしたか?」

「お嬢さんは何を言っているのかしら? この国は戦争などずっとないわよ」

「戦争じゃなくても、悪い人とか……」

「悪い人? この辺の子どもが商業街で盗みでもしたのかしら? 孤児の子もいるから仕方ないわよ」


 私は勇者たちのことを聞きたかったが、ここでもまるで何もなかったかのように言葉を返される。

 あの時私は孤児の治療をしたはず。

 そこに行けば何かわかるのだろうか。


「おい、走ってどこに行くんだよ!」


 貧困街から裏側を通り、奥に行くと子ども達が集まって座っていた。

 急に現れた私に対して睨む子もいれば、比較的子ども達は穏やかな表情をしている。


「お姉ちゃんなんのようだ?」


 きっと孤児の中でも、年上でリーダーの子なんだろう。

 警戒しながら声をかけてきた。


「前に大きな怪我をしたことはないかしら?」

「怪我か? そんなもん遊んでたら怪我ぐらいするだろ」

「例えば誰かに剣で斬られたとか……」

「はぁん!? そんなことするやつがいたら、すぐに捕まるぞ」


 この違和感はなんだろう。

 まるで勇者たちが来たことも、襲撃したこともなくなっている。

 そして、もちろん治療した私のことも記憶にはなさそうだ。


「お話を聞かせてくれてありがとう」


 私はお金を彼に渡すと驚いた顔をしていた。

 まさかお金がもらえると思ってなかったのだろう。

 だけど、今の私にとって彼らの言葉を聞けただけで満足だった。

 みんな元気そうでよかった。

 一応お茶屋の宣伝もしてもらうようにお願いもしておいた。


「用は済んだのか?」

「ええ、大丈夫です。守ってくれてありがとうございます」


 貧困街に入った時点でレイヴンは周囲を警戒していた。

 さすがにあまりみんなと変わらない服装をしていても、人間と魔王国に住む人では見た目が異なるからね。


 違和感が解決しないまま、用事を終えた私たちは家に帰ることにした。

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