第14話 茶葉の乾燥 ※一部レイヴン視点
あれから茶摘みを終えた私たちはすぐに家に帰った。
シルバとギンに定期的にお手伝いをしてもらえるかと尋ねたら、二つ返事で引き受けてくれることになった。
『おかえりー!』
『ほんとうにかえってきたんだね』
どうやら精霊たちは帰ってこないと思っていたのだろう。
「これからここに住む約束だからね。部屋を一つ借りてもいいかしら?」
『なにするの?』
『あそぶの?』
精霊たちと楽しそうに私の周囲をプヨプヨと浮いていた。
何をするのか楽しみにしているのだろう。
空き部屋に着くと床に大きな布を敷く。
「ここでお茶の葉を乾燥させるの」
素材そのままの味を引き出すには、すぐに蒸したり炒めたりする作業を行うが、普段は茶葉の香りを楽しめるように乾燥させる必要がある。
今まで移動ばかりで乾燥させる時間や場所がなかった。
住む場所が決まったことで、乾燥作業をすることができる。
「なるべく重ならないように広げてね」
精霊たちも遊んでると思っているのか、作業を手伝ってくれている。
唯一手伝っていないのは、後ろで立っているレイヴンぐらいだ。
また何か拗ねているのだろうか。
「みんなと遊んで、俺の言うことは聞いてくれないのか」
「はぁー、だから婚約前の男女が――」
「なら婚約しようか」
この男は一体何がしたいのかわからない。
今の私にとってその言葉は嘘にしか聞こえてこない。
小さい頃から誓い合った婚約すら、私の知らないところで解消されていたからね。
「きっとお茶を飲めば落ち着きますよ」
あとは精霊たちにお願いして、私は摘んだばかりの茶葉を蒸してお茶を作ることにした。
♢
「なぁ、俺ってなにかやらかしたのか?」
『うーん、バカだから?』
『さすがにそれはかわいそうだよ』
俺は精霊たちと一緒になって茶葉を並べていく。
セレーナに対して言ったことは、俺も本心ではない。
ただ、今の俺にとってはセレーナが大事なのは本当だ。
「一緒に寝てくれるだけでいいのにな」
『やっぱりバカだろ?』
『お兄ちゃんが言うぐらいだもんね』
俺は記憶の片隅で命をずっと狙われていたのを覚えている。
心から休めるところなんてあるはずもなく、彷徨い続けたらこの国にいた。
そんな俺がセレーナといる時は安心して寝ることができた。
まるで昔の俺に戻ったような気がした。
昔の俺……?
そういえば、俺は誰かに命令されて――。
「くっ……」
急な頭の痛みにその場にしゃがみ込む。
何かを思い出しそうだが、直接頭の中を叩かれたような痛みに息をするのもやっとだ。
『セレちゃんー! バカがしんじゃうよー!』
『おおきくいきをすうんだよ』
精霊が心配そうな顔をして何かを言っているが、全く聞こえてこない。
だんだんと意識も薄れていく。
「レイヴンさん!?」
セレーナは焦った顔をして、すぐに駆け寄ってきた。
その手にはお茶を持っていた。
俺が寝れないから作ってきてくれたのだろう。
それだけでも俺は嬉しくなる。
今までそんなこと一度もしてもらったことはなかったからな。
一度もなかったのか……?
「ああああああ!」
頭の痛みはどんどんと強くなり助けを求める。
だが、俺には誰も助けてくれる人が――。
「レイヴンさん大丈夫ですよ。私はここにいますよ」
あんなに婚約前の男女が近づいたらいけないって言っておきながらも、セレーナは俺を抱きしめている。
胸の音が聞こえ、自然と心が落ち着いてくるような気がした。
もっと欲しい。
誰にも渡したくない。
今まで感じたことない気持ちが俺を襲ってくる。
ただ、あまりにも痛みに耐えられなかった俺はここで意識を失っていた。
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