第13話 元気な銀狼族

「おい、本当に別の部屋で寝るのか?」

「部屋はたくさんありますよ?」


 家が決まればすぐに宿屋から荷物を移しにいく。

 部屋はたくさんあるため、別の部屋にしたがどうやらレイヴンは不満を持っていたようだ。

 さすがに婚約前の男女が一緒の部屋はいけないからね。

 昨日までが特別で、あれは事故だから仕方ない。

 それにお茶を飲んだらすぐに寝られるだろう。


 元気がないレイヴンは気にせず、餓狼族の二人に会いに行くことにした。


「シルバー! ギンー!」

「「お姉ちゃん!」」


 勢いよく駆け寄ってくる二人の間に手が入ってきた。


「むー! レイヴン邪魔!」

「そうだそうだ! あっちいけー!」

「俺はセレーナの騎士だからな」


 部屋を分けた嫌がらせなのか、シルバとギンの間をレイヴンが邪魔していた。


「なら俺を倒してから行くんだな」

「オラが倒してやるー!」

「力を合わせたら強いんだぞー!」


 レイヴンをポカポカと叩いているが、脇に抱えてそのまま走り出した。

 単純に二人と遊びたかったのだろう。


「相変わらず仲が良いのね」


 そんな三人を眺めていると、母親のヴァルナが声をかけてきた。


「そんなことないですよ!」

「ふふふ、あなたとレイヴンさんのことじゃないわよ」


 どうやら私はレイヴンと仲が良いって言われたと思い、勘違いをしていたようだ。

 きっと今頃恥ずかしくて真っ赤な顔をしているだろう。


「あれからセレーナさんが来るのを楽しみにしていたのよ」

「無事にお店の建物も決まったので、お茶の葉を卸してもらおうかと思い、話をしにきました」

「お茶の葉? その辺に生えているから勝手に持って行ってもいいわよ?」


 私にとってお茶の木はお宝の山に見えるが、今まで気にしていなかったヴァルナたちには、ただの木にしか見えないのだろう。


「それはダメですよ。せっかくの収入源になるんですから」

「それなら定期的にあの子たちに会いに来てくれないかしら。私たちも忙しくて相手をしていられないからね」


 銀狼族は狩猟を中心に生計を立てている。

 商店街に売っているお肉もその一部らしい。

 それなら尚更、収入源になるお茶の木を利用しない手はないだろう。


「では一緒にお茶を摘んでもらい、その手伝いとしてお金を支払います」

「ははは、それなら子どもたちも仕事の練習になるか」

「ちゃんと繁盛したら、お茶の葉代も払いますからね」

「思ったよりも頑固な女性なのね」


 お互いにしっかり決めないと、後から問題が起きても大変だからね。

 ある程度利益が出るようになってから、お茶の葉代を渡すことが決まった。

 これから繁盛するのかもわからないのもあり、私たちを気遣ってくれたのだろう。


「おーい、早くしないと母ちゃんがセレーナさんに遊んでもらうぞ」


 ヴァルナの声にシルバとギンはその場で止まり、耳はピクピクと動いていた。


「オラが遊んでもらうもん!」

「オイラが遊んでもらうもん!」


 ギンとシルバは急いで走ってくるが、それよりも速い人がいた。


「俺も手伝うぞ」


 どうやらレイヴンも茶摘みを手伝ってくれるらしい。

 そんなにお茶に魅了されたのかな?

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