第11話 イタズラ好きのちびっこ

 着いた先には木目調のログハウスが建っていた。

 商店街から離れているのもあり、周囲の環境に溶け込むようになっている。

 温かみ溢れる外装にまるで別の世界に来たような感覚だ。


 鍵を差して扉を開けると中央に広い空間があり、2階にいくつか部屋があるようだ。

「宿屋をそのまま残している形ね」

「お茶屋をするには良さそうだな」


 中は定期的に掃除をされているのか、そこまで汚れていないようだ。

 それに木でできたテーブルやイスもそのまま残っている。


『ふふふ、あたらしいひとがきたね』

『おどろかしてみようよ』


「今何か話しましたか?」

「いや、何も話してないぞ」


 レイヴンの声にしてはどこか可愛らしく、子どもが遊んでいるような声が聞こえてきた。


「調理場も問題ないみたいね」


『ぼくたちがそうじしてるもんね』

『ねっ!』


 奥には調理場があり、中も綺麗に整えてあった。

 道具は一つもないため、一通り揃えたらお茶屋を開店することはできそうだ。


 基本的にお茶の提供を中心にするつもりだったけど、ここまで調理場がしっかりしていたら、お菓子を作るのも良さそう。


 お茶だけではリラックスするには足りないものね。


「お店はここでも良さそうね」

「ああ」


 レイヴンはどこか上の空で返事をしていた。

 周囲をキョロキョロとして、まるで何かを警戒しているようだ。


 二階に上がると扉が五部屋あり、宿屋としてはこぢんまりとした作りになっている。

 私が扉に手をかけると、レイヴンは突然私を引き寄せた。


「きゃ!?」


 急に抱き寄せられたため、つい声が出てしまった。

 ここに来るまでに抱きかかえられていたのに、慣れない行動に驚いてしまう。

 それと同時に目の前には手のひらサイズの石が飛んできた。


『へへへ、びっくりしてたね』

『してたね!』


「誰だ!」


 だが、石はレイヴンの手で簡単に受け止められていた。


 レイヴンはそのまま部屋の中に入っていく。


――バタン!


 そのまま私を廊下に残したまま扉は閉まってしまった。

 レイヴンは扉を何度も叩いて、私の名前を呼んでいる。


『あいつびっくりしないぞー?』

『なんでだー?』


 可愛らしい声が近くから聞こえてくる。

 この光景ってあの時と同じかしら。


「セレーナ大丈夫か! 今すぐ扉を壊してそっちに行くから離れてろ!」

「へっ!? ちょっとま――」


 大きな音とともに木の扉の突き抜けるように、レイヴンの足が出てきた。

 本当に突き破るとは思ってもいなかった。

 それにまだこの家を借りるって決まってないけど……。


「待ちなさい!」


 私の声に反応してレイヴンは止まる。


「どうかしたのか?」

「どうかしたのかじゃないわよ! まだ借りるって決まってないわよ!」


 ゆっくりとレイヴンが足を引き抜くと、扉に大きな穴が空いていた。


『やーい、おこられてやんのー!』

『ふふふ、たのしいね!』


「あなた達も笑ってないで、姿を現しなさい」


『えっ? ひょっとして気づいていたのか?』

『お兄ちゃんのせいだよー』


 前も魔王国にいて勇者にイタズラしている子達がいた。

 その時は賢者がびっくりして周囲を火の海にして、大変だったの覚えているわ。


「もちろんよ。精霊族はイタズラ好きだものね」


『なーんだ。バレてたのか』


 パッと目の前が光ると、まんまるとした目をパチパチしてる精霊が姿を現した。

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