第10話 考えるのをやめた

 翌朝、目を覚ますと体にほんわかと暖かさを感じた。


「んっ……」

「そんなに一緒に寝たかったのか?」

「へっ……?」


 おそるおそる手元を見ると、私はレイヴンの服を強く握っていた。


「寒くて勝手に服を掴んでいただけです」

「ああ、そうだな」


 なんで私があの男にくっついて寝ているのよ!

 あれだけ結婚していない男女が同じ部屋にいるのもダメだと言っていたのに……。

 全てはこの寒い魔王国の環境がいけないのだろう。


 レイヴンはニヤニヤと笑っており、視線を感じる。

 居心地が悪くなった私はすぐにベッドから降りた。


「クシュン!」


 やはり魔王国の朝は暖かい季節になっても、まだまだ寒い。

 こういう日こそ、お茶で体を温めたほうが良いのだろう。

 今すぐにでもお茶を飲んで落ち着いた方が良いわ。


「なぁ、そんなに朝から難しい顔をして――」

「別にあなたのことを考えているわけではないですからね!」


 それだけ伝えて私は宿屋を後にした。

 あのままあの部屋にいたら、私が私ではなくなってしまいそうな気がしたからね。



「おはようございます」

「姉ちゃん、やけに朝早くから来たんだな」


 特にやることもなかった私は朝一番に商業ギルドに向かった。

 そんな商業ギルドはお店を営んでいる人たちで集まっていた。

 情報を共有したり、お店ごとで仕入れについて話し合っているらしい。

 食事処を営んでいる人たちは、直接食材を売っているところから仕入れないといけないからね。


「楽しみで眠れなかったです」

「あんなに心地良さそう寝ていたのにか?」

「ヒィ!?」


 突然、声が聞こえてきたと思ったら、後ろにレイヴンが立っていた。

 いつのまに後ろに立っていたのだろうか。

 全く気配を感じなかった。


 それに心地良さそうに……ってずっと起きるのを待っていたのだろうか。


「ははは、夫婦揃って朝から元気だな」


 そう言って茶化しながらも、布紙に書かれた物件をいくつか紹介してくれた。


 その中でも商業街から少し離れて、あの銀狼族が近くに住んでいる物件を見に行くことにした。


 商業街だと呼び込みの声が聞こえてくる。

 お茶屋だからなるべくリラックスできる環境のほうが良いだろう。

 それにお茶の葉は乾燥させる必要があるから、ある程度広い場所が必要になってくる。


 布紙を預かり、そのまま物件に向かうことにした。


「あのー、別に付いてこなくてもいいですよ?」

「俺はセレーナを守るって言ったからな」


 急に名前を呼ぶから、ついドキッとしてしまう。

 朝のことがあったからいけないのよ。

 私は恥ずかしくなり、自然と早足になっていく。


「そんなに急いでいるのか?」

「えっ!?」


 突然体がふわっとすると、いつのまにか私は抱きかかえられていた。


「こっちの方が速く着くからな」


 レイヴンは何を勘違いしているのだろう。

 急いでいると思い、私はそのまま運ぶと気づいた時には目的の物件に着いていた。


 街の人たちに見られてドキドキしているのか。

 それとも抱きかかえられているからか。

 ずっとドキドキしていた初めての経験に私は戸惑い、考えるのをやめた。


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【あとがき】


「ねね、姉ちゃんのために協力してくれないかな?」

「☆があるとお茶屋ができるんだって! 代わりに頭を撫でさせてあげるからさ」

「あっ、シルバだけずるい!」


 銀狼族のシルバとギンが頭を向けて待機している。

 ぜひ、☆を入れて頭を撫でてあげよう。

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